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花咲く丘



花咲く丘








「クラウド?」

せっかく走って来たのに。
待っててくれると思ったから。








エアリスは軽く頬を膨らませるとドアから直ぐに続くリビングを見回した。
クラウドが奥へと向かった通り道が一目瞭然だった。ドアの横にまず片方の靴、一歩先にもう片方が転がる。

「・・・・・・・ソックスは立ち止まって脱いだわけ、ね。」

一箇所に丸まった靴下を見て、エアリスはふうとため息をついた。

「いつかちゃんと言ってやらなくちゃ。」

リビングの先にあるバスルームへと通じるドアの手前につなぎが落ちていた。

「・・・・・・・頑張ってるね。こんなに汚れてる。」

エアリスは、床に脱ぎ散らかされた汚れた作業服をつまみ上げようとして顔を顰めた。
鼻の上に可愛らしいシワを作りながら顔を近づけると、クンとその匂いを嗅いで唇をへの字に曲げる。
近づけようとしていた手を引っ込める。

「・・・・・・・やっぱり自分で洗濯機に入れて貰おうっと。」

それよりも盥に水を張って自分で洗って貰おうかな。そうだ、洗濯板ってまだ持ってたっけ・・・・・・・
エアリスはバスルームに向かうと、開けっ放しのドアから中へするりと入り込み、山と積まれた白いタオルに頬ずりをした。

「・・・・・・いい匂い・・・・・・・。懐かしい匂い。」

うっとりとしたように呟く。

「クラウド?シャワー・・・・・・じゃない、よね。」

シャワーブースのアクリル壁を覗き込むまでもなく、そこには人の気配も立ち昇る湯気もなかった。





一度大きく深呼吸をすると、エアリスはクラウドの寝室へと向かった。

「・・・・・・いないの?クラウド。」

確かに帰って来ている筈なのに。
こんなに家中散らかしたままで一体どこに行ってるんだろ。

開け放たれた窓の前に立つと、一際大きな風が吹き込んで部屋の中に春の埃が舞った。
小さな家に寄り添うように一本だけ立っている背の高いセコイアの葉が風に揺れていた。

「うーん。春の大掃除日和、ね。クラウド、早く帰ってくればいいのに。」

大きく伸びをするとエアリスはいたずらっ子のような微笑を浮かべ、やはりこちらも開けっ放しのままのクローゼットの中に入り込んだ。膝を抱えて背中を丸め、長いコートの影に隠れるように座る。

「クラウドの匂いがする。」





一度肩を竦めると、くすんと鼻を鳴らして微笑んだエアリスは膝の上に頭を乗せて目を閉じた。

帰って来たら汚れた物を全部纏めて、一緒にお洗濯をしようね。
リネンもカーテンも洗って、ニオイアヤメの根と煮ようね。
そうしたらセコイアの木の横にロープをいっぱい張って、全部一度に乾かそう。

そうして同じ香りにくるまって、目が覚めるまでゆっくり眠ろう。

「クラウド・・・・・・・大好き。」











「エアリス?」




・・・・・・・眠ってしまっていたのかもしれない。
クラウドの声が聞こえたような気がした、とエアリスは思った。


「エアリス?どこだ?」

・・・・・・・もうちょっとここで隠れていようかな。
驚かせるのも悪くないかもしれない。
それに…せめて脱いだ靴くらい自分で片付けなさいよね。

「おい!ティファもユフィももう帰るって言ってるぞ。見送ってやらないつもりか?」

クラウドの声がだんだんと不機嫌になって来る。
でもそれは心配してくれてるからなんだよね。

・・・・・・・・いっつもそうだったよね、クラウド。

「もう知らないからな!せっかく来てくれているのに会わないのか?10数えているうちに出て来い!いいか!?」

クラウドが歩き回っている足音が聞こえる。
足音はリビングからバスルームへ向かって、そこで暫く立ち止まる。

・・・・・・・タオルの匂い、嗅いでるんでしょ。

エアリスがくすくすと忍び笑いを漏らした。

それから、大股ですこし急くような足音が近付いて来た。クラウドが数えるカウントがもう少しで10になる。
乱雑にかけられた洋服類の間を縫って両手が差し込まれ、重いコートが掻き分けられるとクローゼットの中が光で満たされた。

「エアリス!」















エアリスがいる筈がないって、判ってたけれど。
どこだ?と聞くのも、見送ってやらないつもりかと大声を上げるのも…全ては虚空に向かって自分を納得させるためだけの物だって、判ってたけれど。
だけどコートの隙間から、なんだかピンク色の蝶が飛び立ったような気がした。





目の錯覚だって、判ってるんだけど。




家中にニオイアヤメの香が漂っていた。
ナナキが森中を探して山ほどニオイアヤメの根を掘ってくれたんだと言って、ティファとユフィが突然押しかけて来た。
朝から大騒ぎだったんだエアリス。
庭に火を炊いて大釜に湯を沸かして。

旅の途中であんたが教えてくれたんだ、って言ってた。
どんなに嫌な物が染み込んでいても、洗った後に洗濯物をニオイアヤメの根と一緒に煮ると、懐かしくて暖かい香りになるんだってな。

二人ともまるで大鍋で何かを煮ている魔女みたいだって、あいつらおかしくて涙流しながら笑ってたぜ。最後は顔がぐちゃぐちゃだったんだぜ?なあ、バカみたいだろ?


最初に洗ったタオルはもう乾いて、バスルームに積み上げてあるんだ。
だから今は・・・・・・・


家中あんたの匂いがする。

ティファもユフィももう帰るから、今煮たシーツやら何やらは俺が自分で干せ、だってさ。
セコイアの横にロープを張って、そこに干したらいいかな。
きっと直ぐに乾くだろうな。



そうして乾いたシーツにくるまって、目が覚めるまでゆっくり眠ったら ………









…今はもうどこにもいない、あんたに夢の中で会えるかなあ。














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ひそやかに僕は願っているから






「スピードを落とせ。」

防弾ガラスで覆われた静かな車内にルーファウスの声が響いた。
ハンドルを握る運転手、助手席にツォン、後部座席にルーファウスが座る車は速度を落とした。後続する護衛車も当然のように急ブレーキをかける。それに続く車が派手にクラクションを鳴らすと、護衛車から身を乗り出したレノがタイヤを打ち抜いた。

「どうしました?」

ルーファウスのレセプション用スピーチ原稿に目を通していたツォンが尋ねた。

「あれは誰だ。」

ルーファウスが指差す先には二人の男女がいた。舗道の上をゆっくりと歩いている。

「・・・・・・セフィロスです。」

一瞬眉を上げて二人を認めたツォンは、それがどうかしたか、というような口調で答えた。

「馬鹿。そんな事は聞かなくても判る。セフィロスと一緒にいるのは誰だと聞いているんだ。」

セフィロスの横で、くるくるとスカートを翻して踊るように歩いているのはエアリスだった。

「・・・・・・ご存知ないんですか?」

ツォンの答えにルーファウスは苛々と声を上げた。

「知っていたら聞かない。もう一度言ってやろうか。あの、アイシクル土産にお前が僕にくれた物と同じ帽子を被っている女は誰だ。おまけに、帽子と揃いのマフまで身に付けている女は誰かと聞いているんだ。僕にはマフがなかったのは一体どういう訳だ。」

ツォンは無難な質問にだけ答えた。

「・・・・・・毛皮の帽子はアイシクルの特産です。どこにでも売っている。ただの偶然でしょう。」

ツォンの返事はルーファウスの機嫌を更に損ねただけだった。

「・・・・・・セフィロスはどうしてあんなに楽しそうなんだ。あんな顔、今までに見た事がない。」

「爪を噛む癖は直して下さい。」

それだけ言うと、ツォンは視線を下げて原稿のチェックを再開した。

「集音しろ。」

ルーファウスの声に書類から顔を上げたツォンの目がほんの少し細くなった。

「盗聴しろと、そう仰るんですか?」

「耳がおかしいのか。そんな品のない事は言っていない。後ろの車に指令を出せ。音を拾わせるんだ。」

一拍置いてツォンが車に付けられた無線を手に取った。

「右前方7メートル。男女二人連れの会話をこちらに流せ。」

「了解、っす!」

元気よく答えを返して来たのはイリーナだった。男女二人連れは他にもいる筈なのに何の質問も挟まない。それ程その二人は目立っていた。そして間髪を入れずにエアリスの声が車内に響いた。

「ねえ、さっきの主人公、私に似てたよね。」

伸び上がってセフィロスの耳に精一杯近付こうとしているエアリスの姿とともに、その声がまるで同じ車の中にいるかのように聞こえてくる。
盗聴など慣れ切った仕事のはずなのに、何故かツォンの心臓が一度どくんと鳴った。

「さっきの・・・・。映画の事か?見ていなかったからよく判らなかった。」

低く、柔らかい声だった。

「見てないの!?信じられない。興味がないんだったらそう言えばいいのに。映画、つまらなかった?他に行きたいところ、あった?」

「別に。君と一緒にいられるのならどこでも構わないんだ。」

車内に奇妙な沈黙が流れ、運転手のハンドルが微妙にブレた。ツォンは右手で口元を押さえると天井の一点を睨んだ。

「ああそういえば。」

ふいにセフィロスがエアリスの方を振り向いて言った。

「最初に出てきた時に君に似ているかもしれないと思った。君のように口を開けて大笑いはしないけれど。」

ひどい!と言って笑いながらセフィロスを叩こうとしているエアリスを見て、ツォンが無線のスイッチに手を伸ばそうとした。

「待て!まだ・・・・・・・!」

ルーファウスに制され、ツォンの動きが止まった。
エアリスがぶつぶつと何かを言い、セフィロスの笑い声が響き、そしてそれから何やら機嫌を損ねたらしいエアリスが先に立って歩き始めた。

「エアリス!」

セフィロスがエアリスを呼ぶ声を聞いてルーファウスの眉が上がった。ツォンが無線を切る。

「・・・・・・全くのプライベートです。これ以上聞き続けていても得る物はないと思われますが。」

「エアリス。聞き覚えがある名前だな……」

ルーファウスの視線はツォンを通り越してセフィロス達を追っていた。それにつられるようにツォンも窓の外を眺める。エアリスが小走りに歩を進めたところで、セフィロスがその広い歩幅で足早に歩けば、二人の間の差はみるみるうちに縮まって行く。
エアリスに追いついたセフィロスが、その身体の後ろから腕を回した。





「おい・・・・・・・あれは・・・誰だ。」

呆然としたようにルーファウスが呟いた。

「ですから、エアリスです。社長から名前をお聞きになった事があるんでしょう?」




ルーファウスのこめかみが微かに痙攣した。

「お前・・・判って言っているんだろう。僕が聞きたいのは、あそこで、あんな醜態を晒している男が誰か、という事だ。」

ツォンとルーファウスの目の前で、セフィロスはエアリスを抱き締めていた。

「神羅の英雄です。」

ツォンがしれっと答えた。
何事もなかったように再び書類に没頭し始めたようなこの男を蹴飛ばしてやろうか、とルーファウスは思った。

「不愉快だな。」

背凭れにどっかりと身体を預け、足を組んだルーファウスが言った。

「何がですか?部下のプライバシーに立ち入り過ぎるのは人の上に立つ者としてどうかと思いますが。」

「人の上に立つ者として言っているんだ。セフィロスは神羅の広告塔だ。あんな無様な姿を人前に晒すなど、神羅への、ひいては僕に対する冒涜だ。」

車を目的地へ、とツォンは運転手に伝えた。
白い大型車は音もなく滑り出す。

「ではどうなさるおつもりですか?部下を呼びつけてデートをするなと、そんな無粋な事を仰るおつもりですか?ご自分の顔にご自分で泥を塗るような真似はなさらないで頂きたいものですね。」

追い抜いた二人の影がどんどん小さくなっていく。
ルーファウスは一度だけ後ろを振り向いてその姿をもう一度見た。
背の高いセフィロスはそれだけで遠くからでも十分目立っていたが、その長身に寄り添うように立つ小さな桃色の影のせいで、まるで太陽がその辺りだけに光を恵んでいるかのような錯覚をルーファウスに覚えさせた。

「神羅の英雄があんな小娘の影に霞んでいいわけがないだろう。」

呟くような独り言にツォンが言った。

「ただの小娘ではありません。だからこそ、それで彼が幸せならば・・・構わないと思ってはやれませんか。」

「いやに詳しいじゃないか。益々気に入らない。僕だけが知らなくてお前が何でも知っているような顔をしているのはもっと気に入らない。」

何を我儘な…、とツォンはため息をついた。

「あの二人はそれぞれ孤独な存在です。そんな二人がお互いに愛情を感じているのだとしたら、それは彼らにとっての救いになるとは思いませんか。」

「全然。」

肩を竦めてルーファウスが言い放った。

「お前はさぞかし良かったと思っているんだろうな。帽子とマフまで買ってやった女がセフィロスと巡り合って幸せそうで。」

ふふんと鼻先で笑うように「マフ」のひと言に嫌に力を込めてルーファウスが言った。
けれど、何の反応も起こさないツォンに苛々したように言葉を続ける。

「セフィロスをどこか遠くへ行かせてやろうか。そうすれば・・・・・・・ああそうだ、それよりもっといい事を思いついた。」

何故かルーファウスを諌める言葉が出て来ない自分をツォンは呪った。

「あいつから取り上げてみたらどうだろう、あの子を。どうせ神羅で監視しているんだろう?父に頼めば僕の物に出来る。それで・・・・・そうだな、飽きたら返してやるよ。その時に、返して欲しかったら僕の前で跪け、って言ったら、セフィロスはどんな顔をするだろう?・・・・・・僕に斬りかかって来たりして。そうしたら一生幽閉とか・・・・どこかもの凄い僻地へ飛ばされる、とか。運が悪ければ処刑かもしれない。」

楽しそうに笑うルーファウスにツォンがもう一度溜め息をついた。こんな戯言に一瞬でも気持ちを飛ばした自分にうんざりした。

「彼は、跪くと思いますよ。」

一瞬何を言われたのか判らなかったかのようにルーファウスが目をしばたかせた。

「セフィロスが?僕の前で?あのプライドの高い男が?」

はっ!と声を上げて笑ったルーファウスをツォンが制した。

「あなたの前で跪くくらいの事でエアリスを返して貰えるのならば。それに、その程度の事では彼のプライドは揺るぎもしないでしょう。」

「何だそれは。僕がセフィロスに相手にもされてないから、そんな事をしても痛くも痒くもないとでも言いたいのか。」

「・・・・・・・ご自分の力量を冷静に判断できるだけの器はおありのようですね。」

ルーファウスの頬が紅潮した。

「誰に向かって物を言っている。先にお前を飛ばしてやろうか。」

「ご随意に。」

あっさりと言うツォンにルーファウスが鼻を鳴らして再びクッションに沈み込んだ。
この主人が、いつか人を思い遣るという事を知る大人に成長するまでには、あとどのくらい時間がかかるのだろうか、とツォンは思う。

「つまらない。それなら・・・・正攻法ではどうだろう。神羅の次期社長夫人、どんな女にも魅力的な地位だと思わないか?」

今度はツォンが笑う番だった。

「お父上に・・・・・・古代種がどういう存在なのかもう少し教えて頂いたほうが良さそうですね。それに、それ以前に彼女はそんな物に見向きもしないでしょう。」

「そう。」

頬杖をついて、暫くの間ルーファウスは考え込んでいるようだった。

「だけど、いつか神羅全部が僕の物になるんだ。あいつらも…お前も…皆僕の物になるんだ。そうしたら………」

そうしたらこの奇妙な苛立ちは収まるだろうか、とルーファウスは思った。
自分だけが蚊帳の外のような居心地の悪さが少しでも減るのだろうか。
「あの二人はそれぞれ孤独な存在です。」と、ツォンは言っていた。そんな二人がお互いを思い合っているのだという。
どうして自分は今までに一度も彼女と会った事がないのだろう。

「僕も十分『孤独』だと言って貰える立場だと思うけれどね。」

窓の外を見ながら珍しく本音をこぼしたルーファウスにツォンが軽く微笑みを浮かべた。
ひょっとしたら彼は、神羅の中で唯一の存在である自分を、同じく無二の存在であるセフィロスと重ね合わせている部分があるのかもしれない、と思う。

「神羅の次期社長が孤独を恐れないで頂きたいですね。それから、ご自分の事を『僕』と仰るのも止めて頂きたい。」

ルーファウスは返事もせず、それからはもうひと言も口を利かなかった。


理解してくれる誰かが現れる事を、彼はずっと願っていたのかもしれない。だとしたら今日見た光景はさぞかし目の毒であっただろうと思うと、ツォンはこの若い副社長にほんの少しだけ同情せずにはいられなかった。












             愛する君にさよなら10のお題  creap(閉鎖)真朝様  より











         

わたしを淋しくさせるからあなたなんてだいきらい















「・・・・・・ザックスには、何かお礼、しなくちゃね。」





雨が降るといつも、俺はエアリスの事が心配になって、またあの放射能まみれの雨の下で笑いながら立ち続けてるんじゃないかとか、すっかり冷え切って風邪でもひいてるんじゃないかとか居ても立ってもいたれなくなった。そして、とにかくあれこれ理由をつけてはスラムへと足を伸ばしていた。
べつに花買ったり話しかけたり、そんな事はしてなかったんだけど、一つ隣のブロックの壁に背中を預けて雨にぬれ始めた彼女を眺めて、もしエアリスが気が付いてくれたらちょっと手を振って、一つウィンクをすればそれが「もう家に帰れよ。」の合図、そんな感じだったかな。
だからエアリスは、最初俺のこと戸外で働いてる男だと思ってたみたいだった。バリバリの肉体労働者。雨が降るとその日の仕事はお休みだからヒマ、みたいなさ。まあ似たようなモンだけどね。

「ちゃんと帰るから。そんなに心配しないで。」

ほんとにすれ違うみたいなフリしてたのに、エアリスにはお見通しだった。そんなふうに会いに行って五回目、俺を認めたエアリスが小走りに駆け寄ってきてそっと囁いた。

うわあ、バレバレ?
一体いつから?まさか最初から?
結構カン良さそうだし。

片手で顔を覆って顔を赤くしている俺に、エアリスが揶揄うように言った。

「名前、教えて?・・・・・・いつもありがとう。」

「え・・・・・あの・・・・・・・えっと・・・・・・ザックス・・・・・・」

「ありがとう」って事は嫌がってんじゃないってば。自分の名前を伝えるだけなのに何赤くなってんだよ俺、と俺は自分が出した情けない声に躊躇えた。

そうしたらエアリスが・・・・・・・って、その時はまだ名前知らなかったんだけど、笑って「いつも心配してくれてるから、ザックスには何かお礼、しなくちゃね。」って。そう言ってくれたんだ。
自慢じゃないけれど、その時俺の脳細胞は人生最初で最後、ってくらいフル回転した。それまでもこれからも、多分あれだけ短時間にモノ考える事ってないだろうね。10秒フラット、何でもない事のように言った俺の声は震えてはいなかっただろうか。

「じゃあ、デート一回。」

気が利いてると思わない?
俺はさ、我ながらこんな返事が出来た自分を誉めてやりたい気分だったんだけれど、だけど・・・・・・エアリスは俺が思ったような反応を返さなかった。





その時エアリスは「デート?」と言って暫くその言葉を噛み締めてるみたいだった。

「そう、デート。」

俺は心臓がバクバクしていて、普段通りの声を出すのに精一杯だった。だけど、エアリスの表情が、嬉しいってんじゃないし嫌ってんじゃないし・・・・・・どっちかっていうとどう答えていいのか判らない・・・・・・っていう感じで・・・・・・・正直、リアクションのしようがなかった。
これは・・・・・・・・ダメかも。
そう思い始めた頃だった。

「・・・・・・・・・デート。うん。デートね。いいよ。」

下を向いて何か考えていたふうだったエアリスがふいに顔を上げてにっこりと笑った。

「嬉しい!デートだね!うん!いいよ!!」

ぱあっと笑って俺の顔を覗くように見たエアリスに、俺は・・・・・・・・・・・俺は撃沈された。













俺は余裕をかましてやがるセフィロスの顔をもう一度睨んだ。
俺は帰るんだから。エアリスの所へ。

「だからここでアンタに殺されるわけには行かないんだよね。」

俺はそう言ってバスタードソードを右手から左手へと移す。
ニブルヘイムの魔晄炉調査なんてお気楽なミッションで、セフィロスが珍しく調べ物を始めた頃から何かが狂い始めた。
そして俺は今セフィロスと刃を合わせる羽目に陥っている。


セフィロスを睨みながら右手にツバを吐きかける。万が一にでもグリップが滑ったら命取りだ。こんなに真剣に、それでいてこんなにも冷たい目で俺を見るセフィロスは初めてだった。まるで知らない人間のように感情の篭もらない瞳で俺を見ていた。
一体何があったのか見当もつかなかった。
だけど、セフィロスのせいで何人もの人間が殺された。村一つ丸々焼くなんて普通じゃねえ。もし・・・・・・もしもこの世界にこいつを止められるヤツがいるとしたら、それは俺しかないと思った。死ぬ気でかかって・・・・・・それでも勝算は1割、あるかな。・・・・・・いや、数パーセントかもしれない。

だけど殺られるわけにはいかない。

走り込んで間合いを詰める。


・・・・・・・・全然刃が立たなかった。


それでもその時まだセフィロスは。
セフィロスの中に残る何かは俺に対して手加減をしていたのだと、俺はすぐさま思い知る事になった。




「・・・・・・・・・殺されるわけにはいかない?ふん。」

二本の刃が重なりぶつかり合う乾いた音の中で、セフィロスは笑いながら俺に尋ねた。

「お前がオレに勝てる見込みなど万に一つもない。だったらさっさと行け。もうオレには構うな。・・・・・・・・殺されたくなければ尻尾を巻いて逃げるがいい。人間らしく惨めな姿を見せてオレを楽しませてくれないか。」

セフィロスが何を言っているのか全然判らなかった。
大人に揶揄われるみたいに俺の剣は振り払われた。


殺されたくなかったら逃げろ、って。
いつも問答無用で戦場に駆り出される俺達に、不器用な労わりを見せてくれてたのはアンタじゃん。
何のために戦うのか自分自身でもわからない、って。それでも逃げる事だけはするなって、言葉にしなくてもぎこちなく教えてくれてたのアンタじゃん。何で一人で吹っ切ったような顔して俺に聞くんだよ!


「アンタは・・・・・・・何のために戦うのか・・・・・どうやら判ったみたいだな。」



精一杯の嫌味を込めたつもりだったのに、セフィロスは鼻を鳴らすようにして顎を上げた。

「・・・・・・・お陰様で。」

コイツ、こんなに強かったんだ。
教練の時って、そんなに俺、手加減されてたんだ。
悔しくて噛み締めた唇から血が滲んだ。
コイツにかかったら俺ってこんなザコなの?
昔よく見てたテレビの、団体様で出て来るザコみたいに殺られちゃうわけ?

「ならばお前は?お前は何のために戦うんだ。」

笑いながらセフィロスが払った太刀が俺の左腕をえぐった。



何だかスローモーションみたいだった。
あんまり太刀筋が鋭いと傷口が綺麗過ぎて、体の反応が追いついていかないみたい。
俺の腕がさ、切られた事気付いてないみたいに、白くぱっくりと開いてしかも全然痛くねえのな。
それから吹き出すように動脈から血飛沫が上がって、ズキズキとした痛みが俺の本能を覚醒させる。

「何のために、ってさあ。約束したからに決まってんだろ!!!」





勝てる、と思ったから切り込んだんだ。
だってさあ・・・・・・・・・・・・・・





















エアリスは全然我儘を言わない子だった。
・・・・・・・だった、とか思うのヤメロよ俺。縁起でもねえ。

最初にデートOKしてくれた時、エアリスは間違いなく俺の事を日雇いの労働者、半分プーまがいの怪しい兄ちゃんだと思ってたと思うんだけど、それでもほんとに優しくて嬉しそうだった。
俺は、神羅のソルジャーだってだけで俺の中身なんか関係なく色目使ってくる女には正直辟易してたし、そんな反応が新鮮で嬉しかったんだけどさ。でも、ソルジャーだって教えたらひょっとして、あの綺麗な緑色の目をもっときらきらさせて「凄い!」とか「カッコいい!!」とか・・・・・・・言ってくれるんじゃないかと思って。それで・・・・・ちょっと得意げに自己紹介した。

「・・・・・・そう。」

なのにエアリスの反応はそれだけだった。
俺はちょっと拍子抜けしちゃったね。だって神羅のソルジャーだぜ?他の子だったら大喜びするところじゃん。ゴンガガになんてソルジャーになったヤツ一人もいないんだから!




「・・・・・・・がっかりしてる。」

エアリスが面白そうに笑った。

「あなたがどこの誰か、なんて関係ないもの。」

がっかりが顔に出ていたらしい。

「私がデートしたい、って思ったのは神羅のソルジャーじゃなくって、雨が降るたびに私の事心配してくれてたザックスでしょ?」

俺は何て返事していいのか判らなかった。俺の中身見てくれよ、なんて言いながらソルジャーって自己紹介。いい気になってたのは俺のほうかもしれない。

「・・・・・・・そっか。ごめんな。そうだよな、ただのザックス、それでいいか!」

俺は笑って手を差し出した。

「それで、今更なんだけどさ。君の名前は?名前教えてくれない?」






だけどその時エアリスは名前を教えてくれなかった。

「ソルジャーさんにつり合うかな。何の能もないただの花売りだけど。」

ひょっとすると彼女は戦争とか、兵隊とか、そんな物に嫌な思い出があるのかもしれない、と俺は思った。戦いが嫌いなのかもしれない。スラムで花売りしてるくらいだからそんなに生活も豊か、ってわけにもいかないだろう。何か事情があるのかもしれないし。
それに・・・・・・可愛い顔して結構頑固なんだと思うと何だかおかしかった。

「わかった。じゃあ・・・今日の俺の自己紹介は忘れてくれる?明後日、お昼にこの場所で待ち合わせようよ。それで、もう一度最初からやり直させてくれないかな。」






そんなふうに大汗かきながら初デートのセッティングさせて頂きました。な?最初っから頑固だったろ?だけどさ、エアリスはほんとに俺に我儘を言わなかった。
そりゃもう、俺が淋しいくらいにね。

「そんなんじゃ俺淋しいじゃない。エアリスなんて大っ嫌い!!俺と花売りとどっちが大切なの!?」

ってね。冗談半分だけど言った事がある。
俺の方が甘えて拗ねてたんだって。











例えば俺が急なミッションで約束をドタキャンしてもエアリスは一度も怒らなかった。どうしても連絡が取れなくて、どこを探してもエアリスがいなくって、結局無断で待ちぼうけ喰らわせちまった時も、後で大慌てで謝りに行ったら、何でもないって顔して「また会えたからいいよ。」って。
こっちが拍子抜けするくらい怒らなかった。
何でそんなに何もかも諦めたような顔するのか、俺は不思議だった。
だからそんな時は何だか物凄く不安になって、エアリスを抱き締めて「ごめんな。」と言った。
謝るから、俺がいない間にどこかへ消えていなくなってしまわないで欲しいと願った。
どうしてあんなに不安だったのか今なら何となく判るけど。いや・・・・・・あの頃だって本気で調べようとすれば調べられたのかもしれない。でも、俺はエアリスを取り巻く何か得体の知れない恐ろしい物から目を背けて、自分の世界の中に連れて行きたかった。ワキからどんどん固めてエアリスをがんじ絡めにして、俺の腕の中で身動きできないくらいにして。
・・・・・・・幸せにできると思ってた。

まずはワキからな。

そう思ってオヤジたちに好きな子が出来た、って手紙まで書いてさ。
そうしてチェックメイトまで一気に持ち込むって寸法。










「約束?」

「うん。次のミッション終わったらさ。実は・・・・・・・・・もう手紙で知らせてあるんだ。好きな子が出来たって。だから・・・・・・・・次の休暇に、俺と一緒にゴンガガ行って・・・・・・・・俺のオヤジとかオフクロとかに・・・・・・会ってくれないかなあ。」









何でエアリスはあの時あんなに、嬉しそうで悲しそうな顔したんだろ。

「嬉しい。じゃあ、全部終わったら。」

全部終わったら、って何が終わるんだろ。

「ザックスと一緒に青空の綺麗なゴンガガに行くね。」















捕えたと思ったんだけど。
俺の剣は空しく宙を切った。


「負けねえんだよ。今日は。俺は・・・・・・・・帰って、エアリスを・・・・・・・・・ゴンガガに連れてくんだから。」

セフィロスが正宗を握り直す音が聞こえた。

「・・・・・・・エアリス?」

その時だけ。
何でだろう。
セフィロスの目の中に正気が戻った気がした。
今なら俺の言葉が伝わりそうな気がしたんだ。

「スラムの花売りか。」



何でセフィロスがエアリス知ってんだよ!!



動揺で切っ先がぶれた。

「・・・・・・意外そうだな。」

セフィロスがまた笑った。

「な・・・・・んで?」

「何故知っているか、と?」

初めてセフィロスの目の中に本気の殺意を感じた。

「選ばれた唯一の存在が・・・・・・・・何を酔狂に花を売りお前のような者と拘わろうとするのか理解し難い。。お前も・・・・・・・・そろそろわきまえるがいい。お前などとは住む世界が違う存在なのだから。」

否定し続けた事が目の前で現実になって行く。
だってセフィロス、アンタが好きな女は女神みたいな女だって言ってたじゃん。
・・・・・・・・・・あ。
違う。

と、俺は思った。

俺が勝手に勘違いして、エアリスはセフィロスなんて知らないって思い込もうと思ってただけだったんだっけ。 セフィロスが時々何か言いたそうな表情をして俺を見ても、俺は知らんぷりし続けてたんだっけ。

「セトラのエアリス。あの娘はオレの物だ。」

「違うだろうが!!!」

頭の中が白くスパークした。
適わない、と思った隙をつかれた。

「エアリスはただのエアリスだ!アンタになんか判るもんか!!」

そう叫んだ俺はその時見事に一太刀浴びていた。

「・・・・・・・下らない幻想だ。それなら何故エアリスが毎月何日も神羅に拘束されていたと思うのだ。神羅が、ただの人間を欲しがるとでも?」

セフィロスの口元が歪んで笑顔を作っていた。

あ、やっぱそうか・・・・・・・

時々、どこを探しても会えなくて、連絡も取れない事があったんだ。エアリスとさ。
毎月何日か。計ったように何週間かに一度。
どこへ行っているのか、何だか怖くて聞けなかった。
だけどそんなある日、神羅の建物の中、いくつも連なった高いビルとビルを繋ぐ通路を歩くアリスに凄くよく似た子を見かけた事が一度だけあった。オレは外から見ただけだったし、いつもの綺麗な色の服じゃなかったから違うと思ったんだ。ガラス越しだったし遠かったし、ほんの一瞬ですぐに見えなくなってしまったから違うと思いたかったんだ。

・・・・・・思いたかったんだけどさ。

……エアリスが白い変な服着て、研究棟になんている筈が無いって。

「・・・・・・・・お笑い種だ。お前たちは彼女の何も理解してはいない。彼女の価値も、何が相応しいのかも、そして何を背負っているのかも。」

価値、と言われて頭に血が昇った。

「判ってないのはアンタだ!!!」

ちくしょう。

って、今思うよ。
なんでエアリスがあんな顔したのか、今なら判るよ。
判らなかった自分は何てバカなんだろうって思うよ。
エアリスはデートなんてした事なかったんだろ。アンタとか、神羅とか、そんな物にがんじがらめになって。普通の・・・・・・・普通の女の子みたいに何も考えずに楽しんだ事なんかなかったんだろ?
雨が好きだって言いながら、本当は青空が一番似合ってたエアリスを、アンタ達が縛って、閉じ込めて、どこへも行かせなかったんだろう?だから俺が「デート一回。」何て言った時もさ、何の事か判らなかったんだろ?

このクソ野郎が!!!

渾身の一撃を喰らわせるつもりだったのに、返り討ちに会った。

「・・・・・・・・・たかが人間ごときに・・・・・・・何が判る。」

最後に聞いたのはその言葉だった。ああ、致命傷かも。

さすがにそれは判った。
直ぐに救急室にでも運ばれなきゃ助からないな。 Dead on arrival。お亡くなりになって到着です。

「・・・・・・・手加減はしておいた。運が良ければ助かるだろう。人間らしく地面に這いつくばって助けを求めに向かうがいい。」

だってアンタだって人間じゃん。
何でそんな事言うかな。





セフィロスがゆっくりと階段を上がっていこうとするのに、俺はもう動けなかった。




思い上がってたのかなあ。
セフィロスを止められるのは俺だけだなんて、さ。

辛いなあ、エアリス。
俺の大事な大事なエアリス。
セフィロスを止められるのは・・・・・・・アンタだけかもしれない。
俺は、アンタをそんな目に会わせたくないなあ・・・・・・・・

俺がしっかりしてなかったから・・・・・・アンタに酷い運命を担わせてしまうのかもしれない。








遠くなりかけた意識の片隅に、まだセフィロスが誰かと戦っている音が聞こえてきた。セフィロスに向かって逆ギレしてる声が聞こえる。

ってまさか、あれ、クラウドかよ・・・・・・・

串刺しになりながら反撃してる。
俺が叶わないのにオマエがどうにかできる相手じゃないっての。

「・・・・・・・・・クラウド・・・・・・・・とどめを・・・・・・・・」

なのにかすれた声が出た。
あいつが何とかしてくれるかもって思っちゃったよ。どうしてかな。
あのザコがクラウドだなんて思わなかった。
クラウドがセフィロスに止めを刺すとこ見るなんて思ってもなかったんだけどなあ・・・・・・。




クラウドに刺される直前にセフィロスが俺を見てちょっとだけ笑ったような気がした。昔の顔して。
クラウドはそんなセフィロスの表情には気付いてなかっただろう。
あいつにはきっとセフィロスが「お前ごときに・・・・・・」と吐き出した声しか聞こえなかったんだろうな。

後ろへ倒れて行くセフィロスの口が音もなくゆっくりとエアリスの名を紡いでいた。






セフィロスの中の何かが、何かをクラウドへ伝えようとしているのが判って俺は鳥肌が立った。




・・・・・・・・・・お前ごときに・・・・・・・・・。




何だかセフィロスの無念さが伝わっちゃったよ。

何やってんのかなあ、俺。
正義のヒーローだった・・・・・・・・・筈なんだけど・・・・・・・・・








セフィロスがエアリスの事を、後の事を全部クラウドに託したなんて思いたくない。
そんな筈ないよな。
だってエアリスは俺と約束したじゃん。全部終わったらゴンガガへ行ってくれるって。

ああ。これきりエアリスに会えなくなったら、今度こそエアリスは淋しいって思ってくれるかなあ。もし「淋しい、大嫌い。」なんて言ってくれたら・・・・・・・それ聞きたいよな。
あ、でも死んじゃったら聞けないじゃん。






だからセフィロス、俺は、人間らしく地べたを這いずり回ってもさ、きっと生きて・・・・・・・・もう一度ミッドガルへ戻るよ。
しょうがねえからクラウドも引きずってミッドガルへ戻るよ。
だってエアリスが待ってるのは俺だもんね。

ミッドガルへ着いたら・・・・・・・・・





エアリスと一本の傘の下で、いつまでもどこまでも歩くよ。

約束、したんだから。










         愛する君にさよなら10のお題 creap(閉鎖) 真朝様より
                                         



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