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晩節 (セフィエア)







「『英雄』と呼ばれた男に妬まれるなんて、光栄だな。」



エアリスがまるで若い頃のような言葉遣いで私をからかう。
微笑んだ目尻にも口の脇にも皺が刻まれて、そこから彼女の上を過ぎていった年月を読み取る事は容易だったし、年を経るごとに言葉遣いも穏やかに変化していたけれど、知性といたずらっ子が同居したようなそのきらきらと輝く瞳は昔のままだった。

庭を歩いているうちに疲れ、東屋のベンチに腰をかけたままうとうととしてしまっていたらしい。不自然な姿勢と疲労のせいか、酷く夢見が悪かった。

「セフィロス?」

自分の肩をそっと揺らす暖かい手にまどろみから目覚め、声のした方を見ると、そこには長い間連れ添った愛しい女が立っていた。

「汗かいてる。・・・・・・・・どうしたの?」

結局恵まれなかった子供の代わりにとでも言うように、エアリスは花を愛し、丹精を込めて育てていた。今日もずっと庭に出ていたのだろう。ほんの少し赤く日に焼けた鼻の頭を私は懐かしい物のように見詰めた。

「・・・・・・・・おかしな夢を見たんだ。夢の中で、私と君は敵対していた。私は君を憎んで憎んで・・・・・・・そして心の中ではその何倍も憧れていた。」

「憎んで憧れる?・・・・・・・随分難しいのね。貴方は軍人よりも詩人にでもなった方が良かったんじゃないの?」

エアリスが笑った。

「君は、私が望んでも得られなかった物を生まれながらに持って・・・・・・そして最後まで自分を捨てずに生きていたんだ。それが、酷く妬ましかった。」

そう言ったらエアリスが言ったのだ。
『英雄』と呼ばれた男に妬まれるなんて、光栄だな、と。

英雄になりたいと思った事はなかった。
エアリス一人を守れればそれでいいと思っていた。
それが結果的に国を守る事になったとしても、退役した今となってはもうどうでもよかった。

昔からそうだった。

そうだ、私は幼い頃からエアリスを知っていた。
それぞれの両親も顔見知りで、まるで兄妹同然に育ったのだ。
その思いがやがて愛情に変わり、いつの日からか求めて止まない存在となり、そうして二人で気持ちを確かめ合って幸せに暮らして来た筈だ。
結婚式でエアリスが身に纏っていたドレスも、ほんの少し自分の靴が押さえただけでも破れそうだった美しいベールも、目を閉じればすぐに思い出すことが出来る。

なのにどうしてこんなに不安なのだろう。
あの白いドレスが夢に見た物のように思えるのは何故だろう。
まるで夢の中に出てきた自分が、こんな幸せは作り事だと嘲笑っているような気がする。

「私と君は・・・・・・・・ずっと幸せだったのだろうか。」

「あらまあ。何を言い出すのかと思ったら。」

エアリスはころころと笑った。

「・・・・・・・・少なくとも私はずっと幸せでしたけど?」

頬に触れたエアリスの掌は、少し乾いて、小さくて暖かかった。

「・・・・・・・・・・・例えどんな世界で生きようとも、どんな場所で巡り合おうとも、私はきっと君を見つけて、そして一生幸せにする。」

我ながらセンチメンタルな台詞だと思ったけれど、口に出さずにはいられなかった。

「セフィロスらしくない。・・・・・・・・疲れているんじゃない?昨日は古代種の神殿まで遠出なさったし。祝典も大賑わいだったんでしょ?」

そうだ、昨日私は神殿に向かったのだ。
何か目的があって。

祝典?

私は一体昨日、何を祝ったというのだろうか。

「休んだ方がいいわね。大丈夫、夢なんだから。目が覚めれば、きっと何の心配もいらないから。」

エアリスの声が段々遠くなって行った。

まだ眠りたくないと思うのに、意識が遠くなった。











目が覚めた。

何気なく触れた自分の頬に残る粒子は何なのだろう。 手の平と頬の間に触れるざらざらとした感触は一体何なのだろうか。

「塩化ナトリウム・・・・・・・カリウム・・・・・マグネシウム・・・・・・・・」

意味もなく涙の構成要素を口にしてみる。
眠りながら自分が涙を流す筈はないのだから。

若しくは、単なる生理現象。睡眠に伴う体液の滲出。


起き上がると、その拍子にまた新しい涙が頬を伝って零れ落ちる。

どうしてオレが・・・・・・・・・・

ベッドに座り直して、セフィロスは顔を覆った。
手を伸ばせば直ぐに届く場所に置いてある正宗が、神殿で祈りを捧げる女の体を貫いた感触はまだはっきりと手に残っている。


どうして目覚めてしまったのだろうか。
夢から覚めても、彼女が生き返る筈もないのに。





「目が覚めれば、きっと何の心配もいらないから。」


そう言ってくれたあの声は。
耳に残るあの声は、もう二度とこの世では聞けないのに。









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