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コードβ 抱擁


※セフィエアベースですがツォンとセフィロスの関係が加わっております。
女性向け表現のお嫌いな方はご注意下さい。








宝条ラボ 実験コードβ(ベータ)  抱擁









「コードβの報告が上がって来ない。」

苛々とした口調で宝条が俺に文句をつけて来た。
コードβ、要するにセフィロスとエアリスに何らかの接触があったら知らせろ、という指令だ。
勿論、会った、話をした、などという子供同士の接触などは報告レベルには満たない。

報告のしようがなかった。
彼らは、二年間黙々と同じ場所で花を作り続けていた。

「・・・・・・・文句があるならセフィロスに直接言って下さい。」

憮然とした俺の口調に、宝条が目を上げた。

「・・・・・・・・セフィロスは、何をやっているんだ。あいつは幾つになった?」

大事なモルモットでしょうに、そんな事もご存知ないのですか?と言いかけて俺は口を噤んだ。セフィロス自身も、自分の年齢を宝条になど覚えていて欲しいとは思っていないだろう。

「・・・・・・・17です。」

宝条が口の端を曲げて笑った。

「スラムの娘の一人や二人、とっくに手を出していてもおかしくはないだろうに。それとも何か?あいつは不能なのか?」

聞くに堪えない汚い言葉を並べて、宝条はセフィロスを罵倒した。
まともな人間だったら12歳の子供相手に欲情はしないだろう、と俺は思ったが、確かにセフィロスの中には、他人との情愛を拒否するような何かがいつも見え隠れしていた。


いつだったか・・・・・・・作業中にうっかり俺とセフィロスの手が触れ合った事がある。その時のセフィロスの、まるで何かとてつもなく熱い物に触れてしまったとでも言いたげな大袈裟な反応を、俺はいつまでも覚えていた。


確かに・・・・・・ある意味、エアリスの方が積極的かもしれない。


自分が育った場所だからよく分かるが、スラムで暮らす子供達は皆一様に早熟で、ませたガキが多い。恐らく、環境に恵まれた子供達よりずっと早く社会に適応せざるを得ない彼らの、極端に短い幼少期がそうさせるのだろう。
そんな子供達に囲まれているエアリスが、一人温室育ちの果物のように何も知らずに過ごせるわけもない。
掃き溜めにツル、を地で行くエアリスは、あの辺りの少年達の憧憬と欲望の的であり、常に身辺に感じるセフィロスの姿さえなかったら、とっくにその餌食になっていたのではないか、とも思われる。

まあ・・・・・そのために俺たちタークスがいるわけだが

エアリスにとって、タークスのメンバーは黒子に過ぎない。そこに存在していても、居ない物として扱われる。その代わりのように・・・・・・そんなふうに影で自分を守ってくれているセフィロスに、エアリスが特別な感情を抱いても不思議はなかった。俺は、ゲスな手管を使わずに彼らが惹かれあってくれるのならば、それが一番自然で好ましいと思っていた。

「見守れ、などとはひと言も言っておらん。」

ぼんやりと考えを巡らしていると、宝条の声が聞こえてきた。

「あいつらがさっさと次の実験を開始するように手を加えろ。」

「・・・・・手を、ですか?」

具体的に何を指示されているのか見当もつかなかった。
あの二人を攫って、どこかの山荘にでも二人きりで閉じ込めておけとでも言うのだろうか。

「あのガキがもう少し色ボケするように、お前がいろいろ教え込んでおけ。」

算数の解き方を教えてやれ、とでも言うように信じられないような言葉を口にする宝条に、俺はしばらく返事が出来なかった。

「・・・・・・・・それならタークスの女性工作員が適任でしょう。彼女達なら仕事と割り切ってセフィロスに・・・・・その・・・・・女性との付き合い方を教えてくれるだろうし、後に問題も残らないし・・・・・・・」

しどろもどろの答弁がまるで俺らしくない。

「君も頭の回らない男だな。・・・・・セフィロスが大人の女に夢中になって、小便臭い小娘を相手にもしなくなったら困るだろう。何しろあいつは・・・・・・マザコンだからな。」

宝条がまた嫌な感じに笑った。
セフィロスの母親が誰なのかは、やはりトップシークレットらしく、まだまだタークス内での地位も低い俺がその真実を知る事もない。

「これも・・・・・仕事のうちだ。君だって何度も使って来た手だろうが。」

タークスの任務のために、興味もない女をベッドに引きずりこんで口を割らせた事だったらいくらでもある。色事の一つも嗜めないようでは最年少でタークスに任命される事もなかっただろう。

だが・・・・・だからと言ってどうして俺が・・・・・・

「君が嫌だと言うのなら仕方ない。別に・・・・・・おかしな嗜好を持つ男が他にいないわけじゃあない。セフィロスの体にあれやこれや仕込めるとあらば、喜んで立候補する奴がゴマンといる。」

宝条の声に顔を上げると、ふん、と笑ってもうこの件には興味がないように再びデータの打ち込みを始めている。


セフィロスは・・・・・・・・抵抗するのだろうか。


・・・・・・・・しないのだろうか。


手が触れただけで電流が走ったように体をびくつかせた、あの人肌に飢えた子供は、誰が相手でも構わないのだろうか。
それとももし嫌だったら、相手を斬るのだろうか。

あの手を、宝条の、神羅の作為のために何度も血に染めるのだろうか・・・・・


俺は、セフィロスが誰かに傷付けられるのも、誰かを傷付ける所も見たくはなかった。





「・・・・・・・分かりました。」

うほ、とでも声に出しそうな嫌な笑い方をしながら宝条が頷いた。

「それでは早速今日から仕事に取り掛かって貰いたい。」






俺は返事をせずに部屋を出た。






それにしても・・・・・・・・。

自室で一人ベッドにひっくり返ると、俺はその前途多難な任務に軽く眩暈を覚えた。
セフィロスと二人きりになる事は滅多にない。
彼が教会へ来る時には、大抵俺はエアリスの監視兼護衛を務めていたし、二人が花を作っている場所へは、必要があって呼ばれた時くらいしか足を踏み入れた事がなかった。

本当に今まで、ただ見守って来ていたのだ。

そしてその間に、セフィロスが積極的に他人に関わろうとした事は皆無に等しかった。












「お前・・・・・・大きくなったなあ。」

セフィロスはまだ車の運転が出来ない。
伍番街のスラムに至る遠い道のりは、やむを得ず俺の運転する車に同乗する事になる。
宝条からの指令がなくとも、改めて眺めると、この二年間にセフィロスは随分と成長していた。そして、そんな俺の言葉をもの凄く嫌そうに見返すだけの経験を、彼は積んでいた。

「・・・・・急に、何だ。」

俺が運転する車に乗っている事が気に入らないのだろう。セフィロスの声が硬かった。
彼の遠慮のない口調に、俺は過ぎ去った二年間を思い出さずにはいられなかった。15歳と20歳の間にあった隙間は、17歳と22歳の俺達の間にはもう存在しなかった。

「お前・・・・・・・好きな子とか、いないのか?」

何気なさを装って尋ねる。
自分の声に吐き気を覚える。

セフィロスは、あの翠色の瞳を眇めて、一体俺が何を言い出したのだろうか、と思っている事だろう。

「ツォン・・・・・・・具合でも悪いのか?」

だからどうしてそこでそう尋ねるのだろうか。
俺が色恋の話をしたらそんなに可笑しいのか。

俺は、無言で車を猥雑な街へと向けた。






β?






「・・・・・・どこへ行くんだ?」

通い慣れた伍番街へ向かう通りを右折した時に、セフィロスがうっそりと尋ねた。
尋ねていながら返事も期待せずに窓の外を見ているその態度に、何だか俺は無性に腹が立った。

「・・・・・・今日は、花作りは止めた。代わりに、お前にもっと面白い事を教えてやるよ。」

前を向いたままそう言うと、セフィロスが迷惑そうに目を上げた。

「・・・・・・エアリスが・・・・・・待っているんじゃないのか?」

俺は内心驚いていた。
教会にエアリスがいようといまいと、セフィロスはいつも無関心に言葉少なく淡々と作業をこなしているだけで、正直、彼女の存在が見えていないのではないかと思っていたほどだったから。

「何だ・・・・・」

俺は口の端で笑った。
別に俺たちが気を揉んで心配してやる事なんかどこにもないじゃないか。ちゃんと二人はお互いを意識し合っているんだから。


・・・・・・・ふと自分が二人から取り残されて置いて行かれるような気持ちになったのは・・・・・・・多分大人の感傷、って奴に違いない。


「何だとは何だ。」

何となく頬の当たりに微笑の形が残る俺の顔を見て、セフィロスが憮然として尋ねた。

「照れるな。」

ぶっきらぼうに返事をしてやった方がいいと思ったのだが、セフィロスは俺の顔を見て心底分からない、という表情を浮かべていた。

「照れる?オレが?・・・・・・・・どうして。」

いやだからさ・・・・と説明してやるのもバカバカしくなって、俺は投げやりに答えた。

「だからさ、お前エアリスが心配なんだろ?だからせっせと教会にも通ってるし、花も作ってるし、あの子を・・・・・守ってやったりしているんだろう?」

それが好き、って事なんだけど。お前は分かってるのかな。

けれど俺ののどかな感情をセフィロスの冷たい声は両断した。

「・・・・・・バカか、あんたは。」

「・・・・・・・バカ・・・・・」

この、女を物にする手管も知らないと心配されているようなガキに、どうして俺がバカ呼ばわりされるんだ、と俺はむっとした。

「好きも嫌いもないだろう。子供が花を作っているから手伝っているだけだ。子供と約束したから守ってやりたいと思っただけだ。あんたは・・・・・任務中にそんな下らない事を考えているのか?・・・・・余程暇なんだな。羨ましいよ。」

誰のせいで!

こんな下らない任務についているのか、と、俺は声を上げそうになった。お前があの子を好きになるように、出来れば自然にと思っている俺は本当にお人よしだ。

「それじゃあ言ってやるよ。俺の今の任務はな、お前に女の扱い方を教えて色ボケにさせる事だ。」

セフィロスといつも一緒にいて、俺は自分がいっぱしの大人のつもりでいた。けれど、今考えれば、俺自身がどうしようもなくガキだった。あの頃は。

俺の言葉を聞いてもセフィロスは眉一つ動かさなかった。
ただひと事「知ってる。」と、相変わらず窓の遠くを見ながら口にしただけだった。

知っているから結構だ、と無言で反抗されているようで、かちんと来た俺は更に言葉を重ねた。

「へえ?どこでお勉強したんだ?『家庭の医学』でも読んだのか?」

青白いセフィロスの皮膚の中の、耳のほんの外側の輪郭だけが薄っすらと色付いたのを見て、俺は調子に乗った。どうやら当たらずとも遠からず、と言った所だろうと思うと、自分の上位を取り戻せたようで気分が良かった。

「お前、他人に触れた事ないだろ?手を繋いだことさえないんじゃないのか?自分から触れた事も・・・・・誰かに触れられた事もないんじゃないか?本でお勉強しただけじゃあ女はその気にならないんだぞ?」

軽口のつもりだった。

けれど、俺は助手席に座るセフィロスの肩が震える瞬間を、はっきり見てしまった。



やばい。



何だか分からないけれど、セフィロスの一番やばい場所を突いてしまったような気がした。

何故なら、スラム育ちの俺こそが、誰からも抱き締められず、誰も抱き締めずに育って来たからだ。

「・・・・・・すまん。」

俺だったら一番言われたくない言葉だと思った俺は・・・・・・・例えガキ相手であろうとも素直に謝るべきだと思った。

「・・・・・・何が。」

けれどセフィロスは俺が何故謝ったのかが分からないようだった。
いつもこうだ。
微妙な感情レベルの話になると、セフィロスは時々本当に分からない、と戸惑ったような表情を浮かべる。

「いや・・・・だから・・・・・・」

他人を愛した事も愛された事もないんだろう、と言った事だ、とはさすがに言えずに俺は言葉を濁した。

「本当の事を言ったんだから別に謝る必要はないだろう。」

そうセフィロスが言った時に、俺たちの車は目指す場所に着いた。









「・・・・・・趣味の悪い場所だな。ツォンはこういう所が面白いのか?」

セフィロスは七番街にあるウォールマーケットに足を踏み入れるのは初めてだったらしい。確かに、タークスメンバーの俺たちにとっては情報収集のための貴重な場所であっても、ソルジャーである彼には何の利用価値もなかったのかもしれない。

今までは、ね。

俺は、セフィロスの肩を押すようにして「蜜蜂の館」へと向かった。





「ツォンちゃ?ん、いらっしゃい。ほひ?」

ドアをくぐると語尾にハートマークを付けたような喋り方をするドン・コルネオといきなり鉢合わせしてしまった。

「何だ、いたのか。」

この、年齢も性的な嗜好も判別不可能な変態オヤジは、ここのところ急にウォールマーケットでのし上がって来ている。この町を掌握するのももうあと数年、と言ったところだろうか。今のところまだ尻尾は出していないが、どちらにしろタークスの要注意人物となるのも時間の問題だろう。そのため俺は、こいつと着かず離れずの接触を保っている。

「いたのか、って。ここは私の店なんだから当たり前。ほひ?。それよりなあに、今日は随分綺麗な子を連れて来たじゃない。おじさんが可愛がってあげようかなあ。いひひひほひ?」

「まず酒。それから・・・・・・・今日は女を買いに来たんだ。」

セフィロスが顔を上げたけれど、俺はその目を見ずに続けた。
コルネオの側に群がっていた女達が、俺たちを興味津々、と言った目つきで眺めていた。

「あらあら、ツォンちゃんが女買うなんて珍しい。うひうひ、おじさんがいくらでも相手してあげるのに。」

コルネオは俺たちのテーブルに座り込んで、上げた右手の指をぱちんと鳴らした。
カウンターの中からグラスを三つ載せたトレイを運んで来たのは、長いブラウンの巻き毛が綺麗な若い娘だった。

「・・・・・・あんたがそういう事が好きなら勝手にすればいい。オレは帰る。」

ガタッと椅子を鳴らして立ち上がろうとしたセフィロスの腕を俺は掴んだ。


「・・・・・・・怖いんだろ。人を殺した事はあっても、人を抱いた事はないんだろ?」


セフィロスは、掴まれた腕を凝視していた。






β?









ツォンに掴まれた手首が熱かった。
オレは・・・・・・その手を振り払う事が出来なかった。
どうして、人の体温はこんなに熱いのだろう。

どうして、オレの体は、どこもかしこもこんなに冷たいのだろう。
そう思ったら動く事が出来なかった。










「・・・・・・・離せよ。」

俺の腕を振り払おうとはせずに、セフィロスは静かに言った。

俺は、意地になったように掴んだ右手に力を込めた。
セフィロスの腕は、あの重い刀を・・・・・・・・そう、あの頃セフィロスは既に自分の身長を越える長さの日本刀を器用に操っていたのだが、その長刀を振り回している腕だとは思えない程に細かった。

本当に、細くて、壊れそうだったんだ。
あの頃のあいつは。

「オレが何の仕事をしているのか、ツォンはよく知っている筈だ。平気で人を殺せるのに、平気で人を愛せる方がおかしいだろう。オレは・・・・・・あんたのような偽善者じゃないんだ。」

偽善者と言われてカッとなったのは、多分、自分がこいつらを見守ってやろう、などと思っている事が偽善に過ぎないと・・・・・・俺自身が一番よく分かっていたからだ。

「お前は・・・・・・・ただ怖いだけだろう。誰かに愛されたり愛する事が怖いだけなんだ。そんな臆病者に何を言われても痛くも痒くもない。」

臆病者、と謗られる事にセフィロスは慣れていなかった。
俺に一歩近付いて、縮まった間合いは緊張を孕んでいた。


「はいはいはいそこまで!」


その緊張の中に割って入れたあの胴間声のオヤジを、俺は後日それなりに評価する事になった。
多分こいつはここで一旗上げるだろう。
俺とセフィロスの間に割って入りたいと思うような奴は、あの日他にはいなかった筈だ。

否・・・・・・・ただ、俺達が若かっただけなのかもしれない。
だからあのオヤジも声をかけられたのだろう。
今の俺達とは違うのだ。

若く、そしてどうしようもなくガキだった。


「いざこざだったら外でやって頂戴。ツォンちゃんも、女買うならマナー守って。面倒が片付いてからもう一度来て頂戴。」

セフィロスに・・・・・・・あの茶色い巻き毛の女はいいかもしれない、と思っていた。けれど、捻れてしまった彼の機嫌はもう直らないだろう。

「・・・・・・今日は帰る。お前は・・・・・・・・俺が思っていたより随分と『大人』らしいから・・・・・・一人で帰れるな?」

貼り付いたように握り締めていたセフィロスの腕を、俺は漸く離した。
白い腕に、赤い跡が残っていた。

「ちょっとツォンちゃん!こんな綺麗な子供この辺りでうろうろさせて・・・・・何かあったらどうするの?てか、おじさんが何かしちゃったらどうするの!ほひ?」

コルネオが好色そうな色を浮かべて舌なめずりをした。
そんな言い方をしていても一応は心配してくれているようだし、それなら教えてやっておいた方が親切というものだろう。だから俺はコルネオを一瞥して言った。

「やめておけ。そいつが『セフィロス』だ。」

ひっ、という声にならない悲鳴があちこちから漏れた。
セフィロスを囲んでいた人垣が大きく広がった。
神羅の情報操作は極めつけだったし、一般の家庭に映像の情報が流れなくなってから久しい。名にしおう英雄セフィロスが、こんな少年だとは誰も想像していなかったに違いない。

そして俺は、神羅内部では英雄と讃えられているその名が、関係者以外には畏怖を催させる代物である事にも初めて気が付いた。

「・・・・物騒な人連れて来ないでよね。ツォンちゃん。ウチはいつもニコニコがモットーの店なんだから。続きはアンタの部屋でやって頂戴。」

塩まけ、と言わんばかりの物言いだった。
ソルジャーは金払いもいいし、ここの上客だろうに、それでは神羅のソルジャーという存在も、どうやらそれ程歓迎される面々ではないらしい。

「それじゃあ。」

そう言って俺は立ち上がった。

「・・・・・・・続きは俺の部屋だ。もしお前が俺に何か言いたい事があるのなら、今日は聞いてやる。俺が知っている事なら話してやる。お前が・・・・・・・・・俺を怖くないと言うのなら俺の部屋へ来ればいい。嫌なら来なくていい。俺は、お前の件からは手を引かせて貰う。」






俺は椅子を蹴るようにしてその場を立ち去った。

そして、乱暴に車のドアを開け、セフィロスは今日は来ないだろう、と投げやりに思いながらキーを回し、思い切りアクセルを踏み込んで車を急発進をさせた。
クソいまいましくて、自分でも何をどうしたらいいのか判らなかった。








ノックの音がした時、俺は最初空耳かと思った。
自室に戻ってから既に5時間以上経っている。その間俺は・・・・・・・部屋に持ち帰った書類に目を通して・・・・・・それでいてその内容は一つも頭の中に入らずに徒にページをめくり続けていた。
慌ててドアに走り寄って・・・・・・・それから自分の慌てぶりを悟られないようにと10数えてドアを開けた。

セフィロスはずぶ濡れだった。

「・・・・・・・雨か?」

防弾ガラスも含めて三層になった窓を通しては、雨音も聞こえなかった。セフィロスが身じろぎをしたので彼の靴と廊下に敷かれた絨毯との間から、ぐしゃ、という湿った音が聞こえた。
厚い布地に水溜りが出来るほど長い間、ノックも出来ずにここに立ち尽くしていたのかと思うと、俺は何だか胸が締め付けられるような気持ちがした。

「とにかく入れ!」

二の腕を掴んで部屋に引き入れると、その腕の冷たさに俺の手が凍えそうになった。


暗闇の中で見るセフィロスは瞳孔がいつもの倍以上に大きくて、泣きたいほど子供に見えた。


「・・・・・・・仕事をしていたのか。悪かった。」

セフィロスの髪からぽたぽたと雨が滴り落ちていた。
俺は、見せ掛けの書類仕事のためにわざわざ掛けていたメガネを机の上に放り投げると、バスルームへ行って乾いたタオルを山ほど抱えて戻った。

「とにかく体を拭け。それとも・・・・・・一度部屋に戻ってシャワーを浴びて来るか?」

セフィロスは下を向いて首を振った。

「・・・・・・あそこから歩いて来たのか。バカじゃないのか?」

俺は、自分が子供を苛めてしまったような罪悪感に、せっせとセフィロスの世話を始めた。タオルで頭を包んでゴシゴシと乱暴に拭いても、セフィロスは抵抗しなかった。

セフィロスの唇が紫色で、体が震えていた。

口から漏れた言葉が震えていたのは、きっと寒かったからだろう。

「あんた達が・・・・・・オレとエアリスを接触させようとしている事くらい知ってる。それとも、もっとはっきり言ってやろうか?あんたはオレ達を実験動物扱いして・・・・・・・・かけ合わそうとしているんだろ?」

俺の手が止まった。

「親切ヅラをするのはいい加減にやめろよ。どうせ仕事なんだろ?もう・・・・・どこでも誰が相手でもいい。データを収集される事には・・・・・・・・とっくに慣れっこになっている。」

慣れてなどいないのだ、とその声は言っていた。

「目的は何だ?どうしてオレなんだ?どうしてエアリスなんだ。それは・・・・・・オレ達が何か特別な存在だからなのか?」



エアリスは、古代種だ。



俺は、唯一知っている情報をセフィロスに伝える気にはなれなかった。
何故なら、セフィロスが何者なのかを俺はまだその時知らなかったから。
エアリスがこの地球上にたった一人残された古代種の生き残りだ、という話は・・・・・少なくともタークス内ではオフレコ扱いではなかった。

ではセフィロスは?

何故神羅が・・・・・宝条が、その大切なエアリスをセフィロスに委ねようとしているのか、それは俺にも判らなかった。
セフィロスが古代種だというのなら・・・・・・エアリス同様、それは隠す程の機密だとは思えない。


それならばセフィロスとは、一体何なんだ。
彼自身は、それが判っているのだろうか・・・・・



「あいつらは・・・・・その実験で一体何が生まれると思っているんだ?化け物か?それとも・・・・・神羅に都合のいい殺人兵器か!?」

セフィロスの追求は止まらなかった。


ひょっとしたら・・・・と俺は思った。

お前は・・・・・・・・・エアリスと同じでありたいのか?
だからエアリスとつがわされるのだと・・・・・・・・・誰かにそう言って欲しいのか?
俺に、お前も古代種なのだと言って欲しいのだろうか。


この世にたった二人だけでもいいから、その何かであるという確証が欲しいお前は・・・・・・・それほどまでに自分が何者であるか迷い続けているのか。




「エアリスは・・・・・・・俺たちとは別の力を持っていると、聞いた事がある。お前に関しては・・・・・・・・俺は良くは知らない。ただ・・・・・・・・お前の能力がエアリスに相応しいと思われたのだとは・・・・・・思えないのか?」

セフィロスは黙って首を横に振った。

そう言えばこいつは頭が良かったんだ・・・・・・と、俺は思った。
俺が知っているセフィロスが余りにも無口で不器用だったから、時々忘れてしまうんだ。彼が、どんなに聡明な人間であるのかを。

「エアリスを・・・・・・・・ただの・・・・・・一人の身寄りのない少女として愛する事は出来ないのか?彼女はまだ子供だけれど・・・・・・自分の立場をよく判っている。きっと、お前の事を理解してくれる唯一の女性に成長すると・・・・・俺は思う。」

「オレが・・・・・・・・誰も愛した事がない事を知っていて、そういう事を言うんだな、ツォンは。」

「そんなに・・・・・怖い事じゃない。人を愛する、ってのは。」

俺の欺瞞を見透かす緑色の目が怒りに燃えているようだった。

「そんなに、人と肌を合わせる事が素晴らしいんだったら・・・・・・・・あんたがオレに教えればいい。」

セフィロスがふらりと立ち上がって、俺のベッドの方へ進んで行った。
歩きながら水を吸ってべたべたになっていたシャツを脱ぎ捨てて、そのまま床の上にべたりと落とした。

「オレの心の中のどこかには、どうしようもなく冷たい場所があって、ほんの少しでも気を緩めると・・・・・・その場所からどんどん冷えていくんだ。心も・・・・・体も冷えていくんだ。
だけど・・・・・・時々あんまり何もかもが面倒になると・・・・・・・このまま心の中の冷たさに全身をゆだねて・・・・・・・・指の先まで凍えてしまえばいい、と思う。」


俺の目の前に晒されたセフィロスの白い背中が、そのままどさりとベッドの中に沈んだ。




β?






セフィロスを色ボケさせろと言われ、自分が拒否しても他の誰かにその役が回るだけだと頭では理解していた。
脅しも懇願も根回しも不要で目の前に堕ちて来た体に手を回して、このまま女を扱うように抱けばそれで任務が果たせる。
願ったり叶ったりじゃないか。
一度人肌を知ったセフィロスが、例え実験だと判っていてもエアリスに惹かれてくれればそれで御の字だ。
判っている。それは判っている。

なのに、どうして俺はこんなに躊躇っているのだろう。









俺は、セフィロスが横たわるベッドに腰をかけて膝に両肘を突くと、その手を組み合わせて何度か自分の額を軽くぶつけた。

俺が座った気配を感じているだろうに、セフィロスは死んだようにそこに横になっていた。

「・・・・・・・なあ。」

声をかけても返事はない。

「男に抱かれる・・・・・って、どういう事か、お前判ってやってるのか?」

本当の事を言えば、俺もそれ程詳しい訳ではなかった。
笑ってくれて結構だが・・・・・・タークスの講義で一度聞いたきりだ。しかもその講義内容は、自分が襲われそうになった時にどうやって身を守るかだったし、勿論実技講習がある筈もない。

「どこでお勉強したんだ。『家庭の医学』でも読んだのか」と、自分がセフィロスを揶揄った言葉が痛烈に己が耳に蘇る。
家庭の医学にだって、男同士がベッドの中で何をするのかなんて書いてある筈がない。

「・・・・・・・もう誰だっていい、って言っただろう。男でも女でもオレには関係ない。」

他人事のように言うセフィロスに、俺はむっとした。
オマケに、何だか自分が蔑ろにされているようで何となく面白くなくて、俺はセフィロスの方に自分の体を向けると、背中にぺたりと手を当ててみた。
びく、と手の下の体が反応した。
手を離してその少し上に置くと、また体が震えた。
俺は、セフィロスの過剰な反応が面白くなって、あちこちにぺたぺたと手を当ててみた。脇の下にそっと手を差し入れてみると、反射的にセフィロスの背中が弓なりに反って上半身が信じられない角度で持ち上がった。

「・・・・・・・・凄い背筋だな・・・・・。」

どんなに綺麗でも女の背中とは圧倒的に違う筋肉の弾力に、俺は僅かに怯んだ。
俺の言葉を聞いて不機嫌そうにまたベッドに沈んだ背中に、今度は指を這わせる。
肩甲骨はやはり細そうな女の骨とは全然違って、セフィロスが呼吸をする度に微かに盛り上がっていた。

浮き出た肩甲骨に沿った窪みを人差し指でそっと撫でた。

肩甲骨から腕が持ち上がって指が宙を掻くように動いてまた落ちた。

「ああ・・・・・・なる程、そうか・・・・・。」

セフィロスの腕の動きと共に動いた背中の筋肉を見て俺は奇妙に納得していた。

「お前、ここの骨から先を腕にして使っているんだな。」

背中を突き破って翼が生えてきそうなその骨を、俺は両手で掴んで左右に広げてみた。
肩甲骨から先を腕として使えれば、重く、長い剣も背筋を使う分だけ軽くなるし、その分腕のリーチが伸びて振り回し易くなる。

思っていたよりも華奢に見えるその上半身の下には、成長途上の筋肉が見え隠れしていた。

もうあと少ししたら手が届かなくなってしまうだろう。
この綺麗で危険な生き物が成獣になってしまう前に・・・・・・ほんの少しでも他人が関われるチャンスがあるとしたら、今が最後のタイミングなのかもしれない、と俺は思った。

それとも・・・・・・・未だ無垢な、愛情に敵意しか抱いていない端正な体を、自分の手で開いて、その取り澄ました表情を歪ませてみたいと思ったのかもしれない。


それ程セフィロスは綺麗だった。

俺が今までに見たどんな女よりも。


体を倒して、背骨の上にキスをしたら、また背中が弓なりに持ち上がりそうになって、それからまるで俺のさっきの言葉を思い出したようにいきなりその動きが止まった。

俺はつい笑ってしまった。

「・・・・・・・ヤキゴテ当ててるんじゃないんだ。そんなに一々反応されると、こっちが恥ずかしくなる。」

セフィロスが顔を俺とは反対の方へ向けた。

「反応している訳じゃない。ただ・・・・・・・・熱いんだ。」

不貞腐れたような言い方に興が乗って、俺は着ていたシャツを脱ぐと、セフィロスの背中に覆いかぶさってみた。

セフィロスの体は、雨で冷えているというよりも、人間離れした冷たさだった。
俺はショックを受けたように、暫くの間動けないでいた。

「・・・・・・・・・冷たいだろう。」

そのまま動かない俺を怪訝にも思わないとでも言うように、セフィロスが淡々と続けた。

「多分、オレの体の中はもっと冷たい。だからツォンは・・・・・・・オレを抱いてもつまらないと思う。」

投げやりな言い方に、頭に血が昇った。
何も知らないくせに判ったような事ばかり言って・・・・・・・つまらないかどうかなんて、俺が決める事まで先回りしてどうでもいい事のように蔑ろにして・・・・・・本当に、こいつはバカだ、と俺は思った。

「冷たければ・・・・・・熱くなればいいじゃないか。」

俺はセフィロスの体を乱暴にひっくり返して唇を合わせた。
ほんの一瞬だけセフィロスの目が大きく見開かれたけれど、すぐにその目付きはいつも通りに冷ややかな物に戻り、そうして俺の顔を凝視していた。

「目。」

酷くやり難くて俺がぶっきら棒に言うと、セフィロスが瞳だけを上げて何だとでも言うように問い掛けた。

「瞑ってくれないかな。」

そう言うとセフィロスはあっさりと目を瞑ったけれど、その瞼の下から燃えるように俺を睨み続けている気配がした。苛々した。
俺の体が段々と熱を帯びて来て、セフィロスの冷たい口の中に舌を入れると気持ちが良かった。

「やめ・・・ろ・・・・・・・。」

俺の舌に口を割られたセフィロスがくぐもった声を出した。目尻がほんの少し赤くなっていて、そこに触れると、やはりほんの少し暖かかった。

俺は、セフィロスの体を暖めたかった。
俺が触れた場所からどんどん暖かくなればいい、と思った。

「やめない。」

ベッドの上に座りなおして、セフィロスの体を抱え上げた。
肩のほんの少し先まで伸びていた髪で、セフィロスの表情は見えなかったけれど、顎を掴んで上を向かせると抵抗せずにもう一度俺のキスを受け止めた。

そして舌を入れるとまた嫌そうな顔をした。

「お前・・・・・・他人が自分の中に入って来るのが嫌なんだな。」

顔を離して今度は首筋に唇を這わせた。

「・・・・・・・だからそんなに体が冷たくなるんだ。」

「別に。体の中に異物が入るくらい、単なる物理的な接触に過ぎない。」

憎まれ口に隠れてセフィロスの本音が見えた。

俺の舌が侵入しただけでそんなに嫌そうなのに、それでも・・・・・・・・心の中に他人が入り込むよりはずっとマシ、って事ね。

俺はそのまま唇を下ろして鎖骨を辿って、薄紅色の胸元を口の中に含んだ。
セフィロスが息を呑んで体を強張らせた。
硬くなった体をもう一度抱き締めてゆっくりと押し倒す。そのまま口中で珠を転がすように愛おしみながら、俺はセフィロスがまだ着ていた物を脱がせようとした。

水を吸った服は体にぴったりとくっついていて、俺は両手を使ってその仕事をこなさなければならなかった。その間もずっと口付けを繰り返していた体は、ほんのり暖まっていた。
だから俺は、セフィロスの体が熱を持ち始めているのだと期待してしまったのだけれど、実際は、俺の体温がセフィロスを暖めていただけだった。

そっと触れてみたセフィロスの下肢は、死人のように冷たかった。

もう一度体を伸ばして、セフィロスの腕を押さえ付けて深く唇を合わせた。
俺が何度も角度を変えてセフィロスの口の中を貪ると、必死で顔を背けようとする。だが、俺の手がセフィロスの足の間に伸びると、顔の抵抗が止んで、今度は膝で俺の腹を蹴ろうとした。

「・・・・・・・往生際が悪いな。」

俺は小さく溜め息を吐いた。

「誰でもよくって、どうでもいいんじゃなかったのか。」

「・・・・・・・・どうでもいいから余計な事はするな、と言っているんだ。」

セフィロスの、感情の篭もらない硝子玉のような目で見詰められると何だか背中がぞくぞくした。

「それとも・・・・・・男相手に欲情して恥ずかしいのか?」

俺はセフィロスの体の中心に沿って手の平を這わせ、やわやわと刺激を加えた。
俺の手の中で、それははっきりと形を変えて行った。

「いつか・・・・・・・・あんたを殺してやる。」

セフィロスが無表情のままで言った。
俺はセフィロスの体をうつ伏せにして腰を抱え上げた。
俺の手の中で反応して勃ち上がっている自分を厭うように、セフィロスが俺の腕の中から抜け出そうと必死でもがいた。
左手でしっかりとセフィロスを抱え込んで、俺の右手はその体を蹂躙し続けた。それから手の平でセフィロスの胸元を探り当て、撫でさすると小さな粒が熱を持って俺の手の中で踊った。セフィロスの口からくぐもった声が聞こえて、俺は夢中で掴んだ腰の中心で左手を動かした。

シーツに押し付けられている頭が左右に揺れて、それでもまだ浮き上がろうとする上半身は、まるで死にかけた白鳥のようだった。

「別に・・・・・・恥じる事じゃない。誰が相手でもどんな場所でも刺激されれば男なんて物はそれなりに反応してしまうんだ。だから・・・・・・・」

シーツを掴む両手に力を込める度に浮き上がる翼を両手で押さえつけて、俺はセフィロスの中に自分を沈め始めた。

「嫌だ!やめろ!」

セフィロスが叫んだ。

もの凄くきつくて、セフィロスも苦しいのだろうけれど、俺も正直苦しかった。だけど、ここでやめるつもりは毛頭なかった。

「だから心配しなくてもいい。」

束の間、セフィロスの抵抗が止んだ。




だからこれから先、お前がどんな実験の対象になっても。
実験だと判っていても欲望に負けてしまう事があっても。
嫌だと思っているのに体が反応してしまったとしても。


「この先、誰と何があろうとも、お前の魂はきっと壊れない。」








俺の祈りは結局届かなかった。
セフィロスの心は最後には壊れてしまったけれど。





あの時俺はああしてセフィロスを守る事しか考え付かなかったんだ。








俺が腰を動かして、セフィロスが上擦った声を上げて、それから俺の手の中にその欲望を吐き出して・・・・・・・・その間中セフィロスは、俺に向かって「殺してやる。」と言い続けていた。

「俺を殺せるのはお前くらいだろう。」

俺はそう言ってセフィロスの中に果てた。






「セフィロスが大人の女に夢中になって小便臭い小娘を相手にしなくなったら困るだろう?」

そう言って気味悪く笑った宝条の顔が脳裏に浮かんだ。
セフィロスはきっと誰にも夢中になどならない。
俺達が勝手に誰をあてがっても夢中になどならないだろう。


その小便臭い小娘に心のどこかで惹かれている事に、セフィロスはいつ気がつくのだろうか、と俺は思った。







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