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すれ違う思い・前編






真新しいシーツの中はいつも冷たかった。
白い布の上を滑るように、無意識に上下する足から冷たさが這い登って来るようで、シーツの上で行われている行為が生むどんな熱も奪い去ってしまうようだった。
身体を覆うのはやはり一枚きりの白い包布で、その二枚の布が作り出す僅かな隙間の中で私に覆い被さる男は、その無機質な布よりももっと冷たかった。




セフィロスはいつも、窓のない白いその部屋の中でまるで手順に沿うように淡々と私を抱いていた。
私達がその部屋へと導かれ、部屋の重いドアが閉まり、照明が落とされると、まるで面倒な事はさっさと済ませてしまおう、とでも言わんばかりの態度で私に近寄り、一度だけ頬にキスを落とすと淀みなく私の術衣を解き、そのままベッドの上へと押し倒した。





伍番街の教会で、この人が生きていて嬉しいと、そして自分を愛していると言ってくれた彼が愛おしいと思ったあの時に、セフィロスに抱かれるのは嫌じゃなかった。

だけど。

嫌だ。
こんなのは嫌だ。
どうしてセフィロスは宝条たちの言うなりになってこんな実験に協力しているんだろう。

嫌だと思うと悔しくて涙が出た。
嫌なのに、その実験が回を増やすにつれて、私の中のどこかにセフィロスの動きに呼応する場所ができてしまって、身体は正直に反応する。


せめてほんの少しでも、セフィロスの目の中に私に対する激情を感じる事ができれば随分違うだろうに。
勇気を振り絞って目を開いてみても、彼はいつも冷たい目で私を見下ろすだけだった。
その瞳の中にどんな感情を読み取る事もできないのに、セフィロスの指はいつも執拗に私を苛んだ。
彼の指先か、唇か、それとも舌か、行為の最初から最後まで、彼のどこかが私に触れていない事は決してなかった。



時おりセフィロスの動きについ漏れてしまう声が喩えようもなく恥ずかしかった。
その音声も、心拍も、体温の上昇も全てデータに残されていると思うと、羞恥で身体が真っ赤に染まった。
縋るようにセフィロスの顔を見たけれど、彼の目はいつも通りの深い淵の底のような静かな緑色で、私に何の救いの手を伸ばしてくれる事もなかった。







すれ違う思い







その時間が過ぎると、セフィロスは再びあっさりとエアリスから離れ、部屋の隅に設えられたブースでシャワーを浴びると、手早く身支度を整えて部屋を出て行く。
早く出て行きたいと思うあまりか、いつも肩先から下の髪がぐっしょりと濡れたままで、それを乾かしもしなかった。セフィロスの髪から滴るしずくが彼の黒いシャツの背中に大きく染みを作っていた。

「・・・・・・・じゃあ。」

必ず先に部屋を出て行く無礼を詫びてでもいるつもりなのだろうか。ドアを閉める前に、振り返りもせずにそうひと言だけ口にする。





まるで、プールでひと泳ぎでもしたみたいだ。
そう思ってエアリスは下を向いて唇を噛み締めた。





「何が、『じゃあ』よ。」

エアリスはシーツを被って嗚咽を漏らした。








「今日は随分調子が良かったようだな。」

人気のない長い廊下を歩いていると、ふいに後ろから声をかけられてセフィロスが振り向いた。

「・・・・・・・睨むなって。モニターは見ていない。そこまで下品な真似をするつもりはないからな。ただ・・・・・・生理データの見方を教えて貰っただけだ。」

殺気すら含んだようなセフィロスの視線に射抜かれて、ルーファウスがたじろいだように付け加えた。

「・・・・・・何か用か。」

普段、実験室からセフィロスの自室までの通り道をスタッフが塞ぐ事はない。さすがに研究員達も多少の配慮をしているのか、彼の進む先は不自然なほどに閑散としていた。そして今頃はエアリスも、長年の顔見知りである女性スタッフ一人のみに補助されて身支度を始めている頃であろう。

「別に。ちょっと興味があっただけだ。衆人環視の中で女抱いた後の英雄がどんな顔をしているのか。」

「こんな顔だ。他に用がないのなら・・・・・・オレは行くぞ。」




身体が重くて頭が痛かった。
こんな事をいつまで続けなければならないのだろうか。




「ああちょっと・・・・・・教えてくれないかな。宝条はもっと面白い実験をしたがっているって本当?相手が人間じゃつまらないからだとか。それを止めさせるために君が人身御供になっているらしいと聞いたんだけれど。『自分が相手をするから動物実験だけはやめてくれ』?大した美談だ。それを教えてやったら彼女も泣いて君に感謝するだろうに。」

壁に凭れて忍び笑いを漏らすルーファウスの足元を大きく裂いて地の底に落としてやれたらいいのに、とセフィロスは思った。

「エアリスには何も言うな。」

「どうして?君の深い愛情を知ったら彼女ももっとこの逢瀬を喜ぶだろう。」

ルーファウスは大仰に肩を竦めて言った。

「オレも犠牲者なのだと思ったら余計に辛いだろう。」

「辛い?はっ!結構嬉しそうだったじゃないか。」

今度こそはっきりとセフィロスの殺気をルーファウスは感じ取った。

「怖い怖い。そんな顔で睨むなと言っただろう。悪かった。お詫びに・・・・・・・そうだな、何か欲しい物があったらくれてやろう。」

お前からなど何も欲しくはない。
そう言おうとしたセフィロスはふいに開きかけた口を閉じた。
緑色の瞳が思案げに揺れた。

「何が欲しい?何か欲しい物があるのか?」

セフィロスが何かを欲するという初めての経験にルーファウスは軽く興奮を覚えた。
こうしてセフィロスに絡む事も、実は自分の捻れた同情心の現れだとルーファウスは自覚していた。宝条の提案はどう考えても常軌を逸している。それ以前に自分の美学に反していた。
だからと言って、セフィロスのように代替案を提出する事も出来ない。データ収集という目的に於いて、自分が圧倒的に只人である事をルーファウスは熟知していた。
だからせめて、周囲が腫れ物に触れるように扱う彼をからかってやろう……、とそんな思いは決して通じていない事も分かっている。

「ねえ。何?」

焦れたようにルーファウスがもう一度口を開いた。

「エアリスを・・・・・・一日だけミッドガルから外へ連れ出したい。許可を貰えるか。」

「それは・・・・・・・・・。」

一瞬口ごもる。
それはどうだろうか、とルーファウスは思った。
何しろ彼女の存在は神羅カンパニーの行く末を握っているらしい。父親が彼女を必ず目の届く範囲に置いている事も重々承知していた。

「やはり無理か。そうだろうな。」

ふんと鼻で笑って背を向けたセフィロスが歩き始めた。

「待て!」

ルーファウスの声には振り向かずにセフィロスが立ち止まった。

「こっちを向け。僕の前で膝を突いて『お願い』したら考えてやってもいい。」

どうしてそんな事を口走ったのか、後々考えてもルーファウスには分からなかった。
まさかそこまではしないだろう、と思ったのか、それともひょっとしたらと思ったのか、それも定かではない。

セフィロスがゆっくりと振り返った。
一歩ずつ、ルーファウスに向かって戻って来る足音が、絨毯に吸い込まれている筈のその音がドラムのようにルーファウスの胸に響いた。


   死刑執行人か、それとも・・・そうだ。まるで死神が近付いて来るみたいだな。
   この男に自分は殺されるかもしれない。



それならそれで別にいいと、その時何故かルーファウスは思った。


視線を捕えたままそう考えていると、セフィロスがすっと片膝を突いて自分の前に頭を垂れた。

「エアリスに見せてやりたい物がある。許可を貰いたい。頼む。」

あっさりと自分の前で膝を折ったセフィロスにルーファウスは軽いショックを覚えた。

「いい格好だな。せっかくだから記念写真を撮っておこうか。『神羅カンパニー次期社長に忠誠を誓う英雄セフィロス』というのはどうだ。」

辛うじて自分を保つと、必死に言葉を探る。

「どうとでも。」

何でもない事のように感情の篭もらない声でセフィロスが答えた。
自分の気持ちが全部めちゃくちゃにされたように何だか無性に腹が立って、ルーファウスは人差し指をセフィロスの顎に添えると、その顔を軽く上向かせた。

「それじゃあ・・・・・・・エアリスにも教えておいてやろう。君のために神羅の英雄は僕の前で膝を折って請願したと。」

「同じ事を二度言わせるな。」

セフィロスの身体から電気が走ってビリビリと音がするようだった。


こいつの鬼門は多分エアリスなのだろう、とルーファウスは思う。
エアリスの名前が出た時だけ瞳に命が宿ったかのように燃え上がる。


これだけ感情が揺れるのに、実験中のこいつのデータの針はどうして殆ど振れないのだろうか、とルーファウスは内心首を傾げざるを得なかった。
余程自分を抑えているのだろうと漠然と思う。

「許可は?貰えるのか。」

「・・・・・・・判った。」

ルーファウスが漸くそう言うと、セフィロスが音もなく立ち上がり今度こそ背を向けて歩き出した。
背を向ける瞬間に、彼が微笑んでいたように見えたのは自分の目の錯覚だろうか、とルーファウスは思った。



「さてと。また・・・・・・・ツォンに根回しを頼むか。」




ルーファウスは頭の後ろで両手を組むとエレベーターホールへ向かって歩いた。








「おい、今暇か。」

忙しそうに書類を捲りながらインターコムで次々と指令を出しているツォンのヘッドセットをむしり取ってルーファウスが耳元で怒鳴った。

「・・・・・・・暇に見えますか。」

「そうでもないから一応お伺いを立ててやっているんじゃないか。暇じゃなくてもいいから聞け。『エアリス・ゲインズブール嬢に一日の休暇及びミッドガル外での数時間滞在許可』を申請して上から了承を取り付けておけ。」

「・・・・・・・は?」

ツォンの右手が止まった。

「彼女の存在は神羅の機密扱いだと、了承されて仰っているんですよね。」

低い声は怒っている証拠だ、とルーファウスは思った。





だけど残念だな。お前が怒ってもちっとも怖くないんだ。
何しろさっきは殺されるかと思ったくらいなんだから。

そう思ってルーファウスはくすりと笑った。





「勿論。いいからさっさと書類を作れ!いいか?承認を貰うまでが仕事だからな。途中で放り出すんじゃないぞ!」

「・・・・・・・あなたじゃあるまいし。」

首を振ってツォンは手にしていた書類をトントンと一つに纏めてファイリングした。

「どうしてまたそんな気紛れを起こしたんです。」

「・・・・・・・仕方ないだろう。セフィロスに頭を下げられた。」

「それで?あなたのプライドが満たされたから許可してやる事にしたんですか?・・・・・・バカバカしい。頭一つ下げたくらいで何でも願いを叶えてやっていたら身体がいくつあっても足りません。セフィロスが頭を下げたくらいで思いあがらないで頂きたいものですね。」

「・・・・・・・じゃない・・・・」

え?とツォンは首を小さく傾げた。

「思いあがったんじゃない。僕は・・・・・・・。」

ルーファウスはツォンの椅子に腰をかけると頬杖を突いて窓の外を眺めた。

「…僕は何ですか?言いかけた言葉は最後まで。言えないのなら最初から口にしないで下さい。それが上に立つ者のマナーです」

ふうん、そう。
と、ルーファウスは気のない返事をした。

「何だろうな。あんな事させられて、僕に頭を下げたセフィロスを見続けていたくなかった。だから…・・・許可した」

「・・・・・・人前で頬杖を突く癖は直して下さい。」

そのまま窓の外を眺めてしまったルーファウスにツォンが言った。
振り返ると、ツォンがリーガルパッドの新しいページを開いて、立ったまま許可申請書の草稿を書き始めている。

「・・・・・・顎の線が崩れるから、か?」


ルーファウスは顎を上げて笑った。







ドアを開くと、そこに小さな花束を見つけるようになったのはいつ頃からだったろう。




エアリスは軽く屈んでその片手に収まる程の小さな陶製の器を拾い上げた。
花の訪れとあの思い出したくない実験の開始が殆ど同時であった事を、エアリスは努めて考えないようにしていた。
最初は殆どしおれかけたような花束だったのに、徐々に手が加えられて行った。何本か纏めて紐で括ったような無造作な姿で届けられていた花は、やがて水を入れた綺麗なガラス瓶の中に挿されるようになり、そして今のように土を盛った入れ物に移植され、エアリスの家の戸口にそっと置かれるようになっていた。






「ヴィオラ・ソロリアという花らしい。もっと簡単に呼ぶなら・・・・・・・・スミレの一種だ。」

窓際に並んだ鉢を見ながらツォンが言った。

「・・・・・・・そう。」

機会があったら植物図鑑を持ち出すか、それが無理ならこの花の名前を調べて欲しいとツォンに頼んだのはエアリス自身だった。
鉢植えを捨てられずに並べて、でもそうする事によって自分が何度あの研究室で忌まわしい実験の対象となったかを思い知らされるようで、花を見詰めるエアリスの瞳は物憂げに沈んでいた。

「花に罪はないんだけど・・・・・ね。」

立ち上がって花弁の一枚を指でなぞる。

「なんで・・・・・・・花なんて、届けるんだろう。」

窓辺に立ったまま口を噤んでしまったエアリスにツォンが言った。

「元々は野草だそうだ。綺麗な土と・・・・・・・日光がないと咲かない。この辺りで見かけた事はないだろう?随分・・・・・・遠くまで探しに行っているんだろうな。いつも早朝に届いているんだろう?」

こくり、とエアリスが頷いた。

「羽でも付いているかな。」

つまらない冗談でも口にしているように、笑いもせずにツォンが言った。

「そうだね。でもきっとその人の羽は・・・・・・・・・。」



両翼が白いわけじゃないかもしれない。

エアリスはそう思った。






「それはそうと、今日は何の用?」

無理に笑顔を作って何かを振り払うように顔を上げるとエアリスがツォンに向き直った。

「これを持って来た。」

ツォンがスーツの内ポケットから薄い封筒を取り出すとエアリスに差し出した。首を傾げながら受け取る。

「何?」

折られただけで封をされていない口に指を入れて中身を取り出す。

「通行許可証に乗車許可証、乗船証。その他諸々行きたい所へ自由に行ける魔法のチケットだ。神羅からのボーナスだと思って受け取って貰えるかな。」

くすりとエアリスが皮相な笑みを浮かべた。

「何のご褒美?ボーナス貰えるような立派な事、私、したっけ?」

ミッドガルを起点、終点とする交通網が神羅カンパニーに掌握されて久しい。人々はごく限られた人物を除いては、徒歩以外には自由に移動する手段を持たなかった。

「そう拗ねるな。たまには・・・・・・・何もかも忘れてこの街から出て行くのもいい気晴らしになるだろう。」

「気晴らしついでにどこかへ逃げちゃったりしても知らないよ?」

エアリスの笑顔は相変わらず強張ったままだった。

「残念ながら一日限りだ。逃げ出す事はできない。それに・・・・・・・同行者がいる。」

エアリスが怪訝そうにツォンの顔を見た。

「セフィロスにも同じ物が渡されている。明日一日、お前達二人は自由に行きたい所に行っていい。」

「セフィロスと一緒に・・・・・・?」

エアリスの表情が曇った。

「嫌なのか。」

以外だと言わんばかりの顔でツォンが尋ねた。

「それで何もかも忘れて気晴らししろって?ツォンも冗談が上手くなったよね。」

ツォンが聞こえるか聞こえないか程度の小さなため息を漏らした。

「お前達は・・・・・・もっと、話をする時間を持った方がいい。お互いを・・・理解し合うために。」

突然エアリスが乾いた笑い声を立てた。

「理解し合う?そうしてもっとあなた達に協力できるように?」

それから声を落とす。

「・・・・・・・知ってるくせに・・・・・・・・・」

下を向いたエアリスの口元が歪んでいた。

「知らないなんて言わせない。私が・・・・・・・・私達があそこで何してるか、ツォンは知ってるくせにそういう事、言うんだ。」

言葉のかけようがなくて、ツォンは束の間口を開けずにいた。

「君はセフィロスの事を・・・・・・・・・好きなんだと思っていた。」

だから教会で・・・・・・・

と、それを口にする事はあまりにもデリカシーに欠けると思い口を噤む。

「だから・・・・・・・意に染まない相手ではなく・・・・その・・・・・・・」

自分らしくないはっきりとしない物言いにツォンが舌打ちをして額を押さえた。

「好きだよ?」

エアリスが顔を上げてツォンを睨んだ。

「好きだし、大切だし・・・・・・・幸せを願ってるよ。だけど・・・・・・・だけどそういうものじゃないでしょ?あんな所であんな事させられて。それとも、好意を持っている相手と番わせて貰って感謝してる、ってそう言えば満足なの?」

エアリスの口から漏れた『好きだ』という言葉と、『番わせて貰って』という身も蓋もない事実に軽く動揺し、ツォンは内心狼狽えた。

「それに・・・・・・セフィロスはきっと私の事なんて何とも思ってない。多分・・・・・・・ハシカみたいなもので、だから・・・・・・・今はもう私の事なんて好きじゃないと思う。じゃなかったら、どうしてあんなふうに振る舞えるのか判らない。なのに・・・・・・・花なんて持って来るから、もっと判らない。・・・・・・・・私、本当にセフィロスが判らないよ。」

ツォンは黙り込んだ。
セフィロスのあの火のような思いが伝わっていないのかと思うと、愕然とする思いだった。
そして宝条が企てているもっとおぞましい実験の内容を知らされていないツォンにしてみれば、諾々と彼らの言うなりになってエアリスと身体を重ね続けるセフィロスの真意を図る事もまた難しかった。

確かに彼の真意は判らない。判らないけれど。

だからと言って・・・・・・・・





「セフィロスは・・・・・・・・・・」

お前の事を心から愛していると、自分が軽く口にしていいものだろうか、とツォンは思った。
ひょっとするとただ単に自分がその事実を彼女に伝える役回りを演じたくなかっただけなのかもしれない。

「ねえツォン・・・・・・・・・・・・・。」

暫くの間の後にエアリスが口を開いた。

「何だ。」

「私、人を好きになっちゃ、いけないのかな。」

ぽつんと呟くようなエアリスの声にツォンが眉を上げた。

「セフィロスが好きだと、今言ったばかりだろう。彼を好きになってはいけないと、そう聞きたいのか?」

エアリスは軽く首を左右に振った。

「そうじゃない。もし私が誰か別の人を好きになったらその人はいつかまたああいう事させられるのかな。それより……あなた達がOK出すような人しか好きになっちゃいけない、って事なのかな、って。そう思って。」

エアリスはセフィロスの事を異性として愛してはいないのだろうか、とツォンは首を傾げた。

「セフィロスの他に、か?」

「だって……そうなの?人を好きになるって。」

そうなの?と聞かれてもツォンには答えられない。

「セフィロスの事は本当に大事。私に出来るなら助けてあげたい。だけど、ねえ・・・・・・人を好きなるってそういう事なの?そんなふうに・・・・・・・理由をつけたり、自分を納得させたり、彼には自分が必要だって言い聞かせたり・・・・・・。ねえ、そうなの?普通はそうなの?みんなそうなの?誰かを好きになる、って・・・・・そんな理屈じゃないんじゃないの?」

一気に口にするエアリスにツォンが口ごもった。
理屈抜きに誰かを好きになるというのは、そう、例えばセフィロスのエアリスに対する思いのような物だろう、と漠然と考える。

「私は・・・・・・・・私にはそんな普通の恋も出来ないのかな。ほかの女の子達みんな、普通にしてるみたいに人を好きになっちゃいけないのかなあ。ねえどうして?どうして私だけ?古代種だから!?・・・・・・答えてよ!ツォン!!」」

八つ当たりだとわかってはいたけれど、エアリスは自分を止める事が出来なかった。

「どうして私だけ・・・・・・・・・・・・」

途中まで口にすると、今までこらえていた物が急に喉から溢れて、エアリスはぐっ、とくぐもった音を立てて喉にせり上がった塊を飲み下すと固めた拳の中心にある人差し指の関節を噛んだ。

「・・・・・・・・助ける?」

関節を噛んだままでエアリスが頷いた。

誰よりも助けを必要としていそうもない男を助けてやりたいと言ったエアリスの言葉がツォンの中でひっかかっていた。

「どうしてそんなふうに思うんだ?」

「だから・・・・・・だから私はセフィロスを憎みきれないんじゃない。嫌いになれたらもっとずっと楽なのに。」

「セフィロスの気持ちが判るのか?」

エアリスはもう頷かなかった。

「セフィロスの気持ちかどうかなんて判らない。私はただ星が語る言葉を受け止めるだけ。いつもいつも、セフィロスと一緒にいるといつも、群れから離れた一際大きくて透き通る様に綺麗な緑色をした星の言葉が私の上に降って来る。もうずっと前から。私達が子供だった頃から。」








サミシイ。
サミシイ。

ダレカタスケテ。








それがセフィロスの思いなのか、セフィロスと一緒にいる自分の思いなのか、それとも他にまだ淋しい誰かがどこかにいるのか、それはエアリスにも判らなかった。

「・・・・・・・どんな言葉が?」

ツォンが穏やかに尋ねた。

「言わない。」

きっと顔を上げてエアリスが答えた。

「あんな事させられてる私達の気持ちなんて、ツォンには判らない!あなた達なんかに何も言わない!」



エアリスは玄関に向かって大股に歩くと、ドアを大きく開けた。

「うん。そうだね。セフィロスと・・・・・・・話すよ。チケットをありがとう、ツォン。」

感謝の気持ちが欠片も篭もらない言葉をかけられ、ツォンはエアリスの家を後にした。



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