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キス・キス・キス(直澄×紗南)


「なあ、あれ・・・・・・・・紗南やろ?」

突然風花ちゃんが言った。
僕達はその日クリスマスパーティーのプレゼントを買いに四人で出かけていた。
僕と亜矢ちゃん。秋人君と風花ちゃん。
お互いそれぞれプレゼントは渡すんだけど・・・・・・て言うか秋人君はどうだかわかんないけど・・・・・・四人でも何か下らない物を交換しよう、それを買いに出かけよう、というのは風花ちゃんの発案だった。
正直言って僕は・・・・・・秋人君はクリスマスとかクリスマスプレゼントにちょっと抵抗があるんじゃないか、って思ってた。
だけど、風花ちゃんはそれを知らないし、今更小学校の頃に秋人君と紗南ちゃんがどんなクリスマスを送ったかとか、プレゼントはどうしたとか・・・・・いちいち伝える事じゃないと思っていたので黙っていた。

「秋人君はショッピングになんて付き合わないと思うんだけど。」

そう言ったら

「せやから拉致すんねん。日曜日に道場行くやろ?その終わりの時間に三人で待ち構えてそのまま攫ってったらええねん。」

・・・・・・風花ちゃんは秋人君の行動を読んでる。
僕は、本当のところ秋人君が風花ちゃんの事をどのくらい好きなのかよく判らない。
判らないけど、多分嫌いじゃないんだろうって思ってる。じゃなかったら、待ち構えた風花ちゃんに襟首を掴まれ引きずるようにあちこち連れ回されたりしないだろうし。

・・・・・・・大体秋人君って、硬派ぶってる割りに押されると弱い、っていうのか引きずられるとそのまま引きずられるっていうか・・・・・そういうとこがあるんだよな、うん。

なんて思っていたら風花ちゃんが「紗南やろ?」と言ったのだ。

「わ!ホント!加村直澄君と一緒だ!」

亜矢ちゃんまでが浮き浮きした声で言ったので、「紗南ちゃん」「加村君」という二大気になる名前を聞いた秋人君同様、僕も眼光鋭く辺りを見回した。
って、見回す必要はどこにもなかった。

「えらい目立つな。あの二人。」

勿論有名人の二人連れだから、って事もあるんだろうけど、何だかそこだけ妙に楽しそうに光が当たってるみたいで、道行く人たちが皆眩しそうに二人を見て、その行く先を開けていた。

「お前はモーゼか、っちゅうの。なあ。」

風花ちゃんがケラケラと笑いながら秋人君の背中を叩いた。
秋人君のくぐもった返事は僕の所までは届かなかった。

「なあ・・・・・・・あの二人、つけへん?」

風花ちゃんがイタズラっぽく笑って歩き出すと、亜矢ちゃんが両手を合わせて賛成して後に続いた。

「・・・・・・・全く、女ってのは。」

って秋人君!
秋人君がポケットに手を突っ込んで歩き始めたので僕はびっくりした。
秋人君までついてくの!?
僕は大慌てで三人の後に続いた。







最初に二人はおもちゃ屋さんへ入って行った。
僕達は巨大なぬいぐるみやクリスマスツリーの影に隠れながら二人の買い物を見守っていたんだけど、加村君が小さな子供が喜びそうなオモチャを沢山買い込むのを紗南ちゃんが楽しそうに手伝っていて、僕は、これはひょっとすると仕事の一環なんじゃないか、と思った。
番組で使うとか、事務所でパーティーがあるとか・・・・・。

「・・・・・・仕事なんじゃねえの?」

秋人君がつまらなそうに呟く。
でも風花ちゃんは引き下がらなかった。

「まだまだこれからや!盛り上がりはこれからやで!」

と、妙に気合の入ったガッツポーズまでかましている。

それから、紗南ちゃんが行きたがるヘンな店に加村君は嫌な表情一つ見せずに付き合って、紗南ちゃんがおかしな着ぐるみを着て登場する度に大受けしていた。
おかしな物を山ほど買い込んだ紗南ちゃんの荷物を持ってやって、それからビルの一角にあるカフェに入った。

「ほら!ここやで!ここ!!」

風花ちゃんが二人が見える窓を早速見つけると、下の通路に屈みこんで僕達に手招きをした。

「・・・・・・・何でオレが・・・・・」

秋人君は文句を言いながらも、風花ちゃんに再び襟首を掴まれて引きずられていた。
僕達が見ていると、加村君が大きなプラスティックのカップを持って紗南ちゃんが座る席に戻って来た。

「・・・・・・・まさかあれは!!!!!」

僕は衝撃で声も出なかった。
カップの上に飛び出るストローが二本!

「・・・・・・・あれを二人で飲むちゅーワケか。・・・・・・・・まさか今時あんなモノにお目にかかろうとは。加村直澄、やはり只者ではないちゅー事やな。」



僕にはどうも風花ちゃんが加村君に感じる微妙なライバル意識が理解出来ない。
ひょっとしたら、加村君が上手に紗南ちゃんをリードするように自分も秋人君に対して上手く立ち回れたらいいのに・・・・・なんて考えてるのかな、なんて思ってしまう。

紗南ちゃんは・・・・・・・・・さっきのお店で買った鼻とヒゲが付いたメガネをかけて大笑いをしていた。
加村君が顔を赤くして頭を掻いている。

「・・・・・・・恥ずかしいヤツだな。」

「どっちが?」

秋人君の声に僕は思わず聞いてしまった。

「どっちもだ。加村も・・・・・・照れるならあんなモン買ってこなきゃいいだろ。まあ、あのヒゲメガネが待ってるとは思わなかっただろう。気の毒に。」

そうかな、と僕は思った。
加村君は、紗南ちゃんが例えバカ殿のちょんまげを付けて待っていたとしてもあれを買って来て、バカ殿と一緒に喜んで一つのカップから飲み物を飲んだんじゃないだろうか。
だって今だって、ヒゲメガネとあんなに嬉しそうに並んで座っている。
そして、秋人君も本当はそれを判ってるんじゃないだろうか、と思った。



「何か・・・・・・・色気がないちゅーか・・・・・・」

「デートじゃないみたいね。」

風花ちゃんと亜矢ちゃんが何だかがっかりしたように言った。
確かに、店の人もみんなあの二人が加村直澄と倉田紗南だと気付いているんだろうけれど、二人がしている事はまるで冗談のようで、どこから見ても何かのロケかドッキリか、ただのおふざけにしか見えなかった。

「帰るぞ。」

秋人君が言った時、ちょうど加村君が立ち上がった。
紗南ちゃんと荷物はそのままだ。

「敵に動きありや!紗南を一人残して加村直澄はどこへ行く。斥候!見てきいや!」

鋭く風花ちゃんの指令が飛び、斥候と指差された僕は反射的に店のドアの死角に隠れた。
風花ちゃんは素早く秋人君、亜矢ちゃんを別の店に引きずり込む。












加村君は、一人でアクセサリーショップに入って行った。
きっと紗南ちゃんへプレゼントを買うんだな、と僕は思った。
紗南ちゃんを待たせて買うんだったら、クリスマスプレゼントじゃなくて今日のお礼、ってとこかな。

「お礼に貴金属ぅ?」

僕の心の中にメラメラと闘争心が持ち上がり、僕は今まで以上に加村君を注視した。
最初に出して貰っていたのは指輪だった。

「お礼に指輪ぁ?」

僕の炎に油が注ぎ込まれ、思わずメガネの曇りを拭く。
そして再び注視してた・・・・・・んだけれど、何だか段々気持ちが暖かくなって来てしまった。
僕は今まで、こんなに嬉しそうに何かを選ぶ人を見た事がない。




・・・・・・・紗南ちゃんだったら、きっと何でも喜んでくれるよ。




僕は、ずっと前に秋人君に言ったのと同じ言葉を加村君にかけてあげたくなった。
加村君は、本当に紗南ちゃんの事が好きなんだな、と思って、それから秋人君の事を考えて少し胸が痛くなった。









「剛君!!!紗南ちゃんがお店出ちゃった!」

その時僕は突然亜矢ちゃんに腕を掴まれた。
亜矢ちゃんが指差す方を見ると、相変わらずヒゲメガネをかけたままの紗南ちゃんが、今度は三角帽とおまけにほら・・・・息を吹き込むとぴーひょろ言って紙の筒が伸びるあれ、あれをぴーぴー吹きながらこちらに向かって歩いて来た。

「おーい!直澄ー!どこだー?」

紗南ちゃんの遠慮のない声が聞こえて、慌てたように加村君が手に持っていたネックレスを店員に渡して会計をしている。

「こっちやこっち!」

相変わらず風花ちゃんのリードで植え込みに隠れるのと、紗南ちゃんが通り過ぎるのは同時だった。
加村君もお店のカウンターの下に隠れていた。

「・・・・・・・・バカくせえ。あいつ一人に振り回されてるみてえ。」

だってそれはいつもの事じゃない、秋人君。
僕は笑いながらため息をついた。


通路の奥まで行って戻って来た紗南ちゃんは、アクセサリーショップから猛ダッシュで隣の店へと飛び込み再び顔を出した加村君と漸く合流した。

「加村直澄・・・・・・・苦労人やな・・・・・・・・・」

何となく風花ちゃんの心の針が加村君同情へと振れて行くのが判った。

「・・・・・・・で、まだ後つけるのか。」

「当たり前や。さっきの見たやろ?あれを渡すんが本日のメインイベントやないか。」




・・・・・・・やっぱり同情はしていないみたいだ。





それから加村君と紗南ちゃんは楽しそうに話しながらそのビルを出て、それから暫く歩いてもう一つのビルの中へと吸い込まれて行った。
そこはオフィスビルで、日曜日は殆ど使われていないようだった。ただ、日曜でも出勤する人のために通用口は開けてある。

「こないなとこ入って・・・・・・どないするんやろ。」

人気のないビルの中はしんと静まり返って、時々紗南ちゃんが吹く笛の音がやけに響いていた。

「階段・・・・・・使って上がってるね。」

僕はそう言って、足音を忍ばせて先に立って歩き始めた。
実は僕もちょっと興味あったんだよね。
加村君が紗南ちゃんにどうやってプレゼント渡すのか。




三階まで上がると、急に辺りが明るくなった。
そこはビルの中にある小さな空中庭園だった。
庭園・・・・・・なんて言うほど気の利いた場所じゃなかったかもしれないけれど、それでも植え込みが整えられて、ベンチがいくつか並んでいて、多分このビルで働く人たちの息抜きの場所なんだろうと思われた。
でも日曜日の、しかも12月の寒い木枯らしの中、そんな場所にいる人は誰もいなかった。

「人気のないベンチ・・・・・・・夕暮れ時のサヨナラの時間。ベタや。ほんまベタベタや加村直澄。せやけど・・・・・・・やっぱ美形は得やで。あんなベタベタでも笑う気にならへんわ。」

踊り場から顔だけを覗かせて、風花ちゃんが感心したように言った。
確かに僕も、コートのポケットからさっき紗南ちゃんには内緒で買ったプレゼントをごそごそと取り出してそれを渡す加村君はあまりにもベタだと思った。
思ったけれどもやはりそれが絵になるのはちょっと悔しい気持ちもした。

加村君は、結局指輪は諦めてネックレスを選んでたんだよね・・・・・・・・。

いくら何でもデートの終わりに指輪はないよね。
だって二人がそんな付き合いしてるなんて聞いた事ないもん。
そりゃあ、週刊誌なんかでは散々ウワサにはなってたけど、紗南ちゃんは否定してたし。

・・・・・・・・と思っていると、紗南ちゃんがプレゼントを受け取って包みを開き始めた。
ここからじゃどんなネックレスなのかは見えないけど、何だか嬉しそうで、早速つけてみようとして上手く止まらなくて、ヒゲメガネのままバカ笑いをしている紗南ちゃんの表情はここからもよく見えた。

「おおっ!!!加村!それが狙いやったんか!」

風花ちゃんが感に堪えない、といった声を上げて膝を叩いた。
僕のメガネもきらりと光った。何と、加村君は紗南ちゃんの手からネックレスを受け取って、自分で止めてあげようとしている。

「紗南ちゃん!逃げて!襲われる!!」

僕は冗談半分、でももう半分は本気で叫んだ。その途端に

「んなワケねーだろバカ。」

と、秋人君にすぱこんと殴られた。

「あいつが大人しく襲われるか、っつーの。」

そりゃそうだ。
紗南ちゃんがこんな誰が見るか判らないような場所でそんな事するわけない。
着ぐるみのレッサーパンダに化けてでもその場から逃げ出すだろう。

でもそうじゃなかった。
そうじゃなかったんだ。





ネックレスを付け終わって、ちょっと体を離して紗南ちゃんをまじまじと見た加村君は、にこっと笑ってまた紗南ちゃんに近付くと、額に軽くキスをした。

「おおおおっ!」

と風花ちゃんが声を上げ、亜矢ちゃんが片手で口を覆った。
加村君が紗南ちゃんの三角帽とヒゲメガネを取って、それをベンチの上にそっと置いた。
それから、加村君は紗南ちゃんのほっぺたにもキスをした。
僕が驚いたのは、紗南ちゃんがそれを全然嫌がっていなかった事だった。
ほっぺたにキスをした後、そのまま加村君は動かなかった。きっと紗南ちゃんに内緒話をしているんだろう、と僕は思った。紗南ちゃんが時々くすぐったそうに体を竦めるのを見ていると、こっちが恥ずかしくなって来るくらいだった。

顔を離した加村君が、紗南ちゃんの口からピーヒョろ笛を抜いた。





「・・・・・・・くだらねえ・・・・・」

その時秋人君が憮然と呟いた。

「そっ・・・・・そうだよね!秋人君と紗南ちゃんだってあんな事やこんな事色々しちゃってたもんねえ!あれくらい・・・・・・」

僕は秋人君の不穏な雰囲気に逆上して、ある事ない事口走ってしまった。

「・・・・・アンナコトやコンナコトて・・・・何やの。秋人と紗南が何したて?」

風花ちゃんがギロリと僕を睨み付けた。

「えっ・・・・・・いやあの、ほら!子供のふざけっこみたいな物なんだけど。小学校の頃だし・・・・・ねえ亜矢ちゃん・・・・・・・」

僕はうろたえまくって傍らにいる筈の亜矢ちゃんに話しを上手く纏めて貰おうとそっちを見た。でも、亜矢ちゃんは僕達の話なんて聞いてもいなかった。
目は一点を見据えている。・・・・・・・と思ったら

「・・・・・・・きゃ!」

と小さな声で叫んで両手で顔を覆った・・・・・・と思ったらそれは一瞬で、そろそろと滑り降りながら開く指の間から、亜矢ちゃんのキラキラした目と上気した頬が見えた。
何?一体何?と僕も慌てて亜矢ちゃんの視線の方を見て衝撃に硬直してしまった。






さささ紗南ちゃんと加村君がちゅうを!
ちゅうをしている!!!!

僕はムンクになってしまった。

加村君と紗南ちゃんはお行儀よくベンチに並んだまま、そっと唇を合わせて直ぐに離した。
すぐに離れたかと思ったらまたくっついていた。
何だか段々間隔が長くなっていくような気がする。

「・・・・・・・・なんちゅー手馴れたキスや。・・・・・・侮れん、加村直澄。」

何だか風花ちゃんが加村君に向かって静かな闘士を燃やしていた。
何と言うか、燃えどころが微妙に違うような気がしないでもないんだけれど、多分風花ちゃんには風花ちゃんなりの青春の青写真、って物があるんだろう。




「そこで肩に手を回すんか!加村。なるほど!!勉強になるわ!」

向学心旺盛な風花ちゃんは、そこにノートがあったらメモでもつけそうな勢いで二人を凝視していた。

「おおっ!で紗南がおずおずとな!おずおずと腕を回すと!」

風花ちゃん・・・・・・・・
一人で男役と女役とやってもしょうがないんじゃ・・・・・と思わずにはいられなかったけれど、僕は賢明にも黙っていた。

加村君と紗南ちゃんは暫く見詰め合って、それからもう一度唇を合わせた。


「うわ・・・・・・なんか・・・・・凄くない?」

僕達は赤くなって戸惑って顔を見合わせた。
風花ちゃんですら真っ赤になって何かもごもごと呟くばかりだった。
僕だって何も言えない。
だって・・・・・・・だって二人のキスはあまりにもエロチックだったから。
さっきのキスとは全然違った。
加村君の手が紗南ちゃんの顎を包んで、加村君の頭が何度か動く度に紗南ちゃんの上気した頬が見えて、僕達は見てはいけない物を見てしまったように動揺した。

「舌・・・・・・・入れてるんとちゃう・・・・・・・?」

「ひええええええっ!」

僕は風花ちゃんのとんでもない発言に飛びすさった。

「ひええ、て。だって、そうやろ。見てみいや。」

見てみい、と言われて見るのも何だか物凄く下品なような気もするし、だけど舌と言われてもう僕も何も考えられなくなってしまうし、僕はただひたすらあたふたしていた。

「・・・・・・・素敵・・・・・・・・」

その時、亜矢ちゃんの呟きが聞こえた。

「あ・・・・・・亜矢ちゃん・・・・・・・・」

亜矢ちゃんの声に僕は言葉を失った。
何で!?
僕の大事な清らかな亜矢ちゃんが何であの濃厚なキスシーンを見て素敵、だなんて・・・・・・・・

「ほんま。・・・・・・・・むちゃくちゃ綺麗やで。」

風花ちゃんも何だかメモを取るのも忘れて・・・・・って元々取ってやしないけど、でも見とれてしまっている。
僕は口をあわあわと動かしながら、直視出来なくなっていた二人を勇気を振り絞ってもう一度見てみた。



・・・・・・何だか、亜矢ちゃんが素敵だと言った意味が判るような気がした。
加村君も、紗南ちゃんも、二人のキスも凄く綺麗だった。
加村君の手が紗南ちゃんの髪に触れる仕草も、紗南ちゃんが時々見せる苦しそうな表情も衝撃的に綺麗だった。
僕は、見た事もない紗南ちゃんにドキドキした。
まるで二人の鼓動が僕達に乗り移ってしまったかのように、いつまでもドキドキが止まらなかった。

僕達にとってとてもとても長い時間が過ぎた。
僕達はもう声もなく、漸く加村君が紗南ちゃんを離して優しそうに笑った時には、緊張が一気に解けてその場にへたり込んでしまいそうだった。


「あの二人・・・・・・マジで出来てたんやなあ・・・・・・・」

風花ちゃんがため息混じりに言った。

「・・・・・なあ秋人。アンタ知ってたん?あの二人があんな濃厚なお付き合いやて。・・・・・・・・・・なあ・・・・・」

風花ちゃんは紗南ちゃんたちから視線を反らせずに秋人君がいる筈の辺りを片手でかき混ぜるような仕草をする。
でもそこに秋人君はもういなかった。


「・・・・・・・て、あれ?秋人?・・・・・・・・なんやの、どこ行ってもうたんや。」

風花ちゃんが慌てたようにあちこち見回して、それからまだ赤い顔のままで「お先、ごめんな!」とボク達にウィンクを投げて走り去って行った。
ひょっとすると青春の青写真に火がついてしまったのかもしれない。

でも風花ちゃんはきっと秋人君には追いつかないだろう。
青写真はまたの機会になるだろう。
今の秋人君は、誰にも追いつかれたくないだろう。






僕は、紗南ちゃんがキスしてるところを見ちゃって凄くショックだったんだけれど、でも本当の事を言ってしまえば、紗南ちゃんが今まで見た事ないくらいに綺麗だった事にちょっと感動してしまった。
だって、それほど紗南ちゃんはいつも僕達と一緒にいる時と違った。
何だか・・・・ちゃんとした女の人みたいだった。
だけど、秋人君にとっては、キスそのものよりも、紗南ちゃんが綺麗だった事の方がずっとショックだったのかもしれない。

紗南ちゃんがボク達の・・・・ううん、秋人君の手の届かない人になっちゃったみたいで、凄く。

「・・・・・・秋人君・・・・・・・・・」

僕はさっきまで秋人君がいた場所を見て呟いた。


でも大丈夫だよね、秋人君。
きみには僕達だって、風花ちゃんだっているんだから。





僕は、自分で思った事が、秋人君にとって何の慰めにもならない事を心で知りながら、それでも何度も繰り返し思わずにはいられなかった。

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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