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ひとでなしの恋









ひとでなしの恋






セフィロスが近付いている。
今までとは違う。
真っ直ぐに、私を目指して。
私がこれから何をしようとしているのかを知って、私の命を奪ってでもそれを止めようとしているのが判る。
だから私は急いであの場所へ行って、あの呪文を唱えて、この星を救わなければならない。



















祭壇の前に立って、エアリスはそっと髪の後ろに触れた。
そこにはいつかクラウドに、何の役にも立たないマテリアだと言った硬質な球体があるだろう。

「・・・・・・可哀想な私のマテリア。」

祈り始めなければいけない時刻だった。
何の役にも立たない筈だったマテリア。
メテオを封印するためだけに存在し、機能するマテリア。
もしセフィロスがいなければ、そしてセフィロスがメテオを発動しさえしなければ、一生をただの綺麗な髪飾りとして自分と共にあっただろうに。

「・・・・・・・ま、私とおんなじようなものね。」

何となく苦笑が浮かぶ。
自分が何のために生まれたのか、何のためにただ一人で生きてこなければならなかったのかずっと判らなかった。もし星を滅ぼしてしまおうなどと考える者が現れなければ・・・・・・・・そしてそれがセフィロスでなかったならば、自分の特異な性質に目を向ける事もなく、ただの人間として一生をごく普通に過ごせたのかもしれなかった。


・・・・・・・それもちょっとはね、考えたんだけど。


仲間達と共に精一杯悪あがきをして、人間の力の及ぶ範囲で無駄な抵抗を繰り返し、そして・・・・・・・・叶わなくてみんなと一緒に悔しがりながら滅んでしまえたらと。それが自分に出来る全ての事だと思い込めてしまえれば、どんなに楽だっただろうか。

ナナキの熱い体温が蘇る。



「暑いよ、ナナキ。そんなにぺったりくっつかないで。」



夏の熱帯夜の中、誰か人にもたれかかり、その熱を放出しようとしていた赤毛の犬をみんなで邪険にして誰か他の相手に押し付けようとした。
自分も只人であると、ナナキの少し熱い体温を感じながらみんなと同じなんだと思えたあの夏の日が懐かしかった。

今は、とても寒い。
みんなを助けられるのだと思っていても、一人はとても寒い。

「あれ?・・・・・・・・・おかしいなあ。何で・・・・・・・涙が出て来るんだろ。」

エアリスは手の甲で瞼をごしごしと擦った。

気力と集中力が必要な事は判っていたけれど、脳裏には次から次へと愛しい人々の顔が浮かんで、エアリスはなかなか祈り始める事が出来なかった。

何も言わずに置き去りにしてしまった仲間達は、自分が死んでしまった後、少しは自分の事を思い出してくれるのだろうか。勝手な事をして勝手に死んで、と、怒りながらも涙をほんの少し、手向けてくれるのだろうか。

そしてクラウドは・・・・・・・・・・



「酷い事して、ごめんね。」



ぽとんと一粒涙が落ちた。
クラウドが今危うい精神の均衡の上に立っている事は十分承知していた。本当の自分と、自分が作り上げた理想の自分と、そしてクラウドの心の奥に巣食う闇の中に飲み込まれてしまいたいという願望の狭間で揺れ動き、ひょっとしたらそれ以上の狂気に囚われてしまう可能性も皆無ではない。
自分が唱えるホーリーはメテオを止めるため。そのメテオを発動させるための手助けをしてしまった事で彼は悩み続けるのかもしれない。
自分は後の責任を何一つ背負わずに彼らを置き去りにしてしまうのだと思うと胸が痛んだ。

・・・・・・・ティファ、クラウドをお願い、ね。
今更こんな事、言える資格もないんだけど・・・・・・・・

初めて自分をただの人間だと思って接してくれた同世代の友人の姿が浮かんだ。
私がクラウドの事好きだって言ったら、笑って「応援するね。」と言ってくれた。
自分の痛みを決して外に現そうとはしなかった。
平凡に生まれ育って、何の疑問もなく大好きな幼馴染を大きくなってからも好きで、いつかその人が振り向いてくれたら、って考えてた人。それが判っていたのに気付かない振りをしていたのは、そんな平凡な幸せに恵まれたあなたが憎くて、羨ましくて、でも本当はそれ以上に憧れてたから。

「ひとでなし・・・・・・だったよね。」

ティファが泣いていたのを知っていたのに、どうしてもクラウドと一緒にいたかった。
自分は本当はクラウドに相応しくない、って初めから知ってたから。





「クラウド・・・・・・・・泣いてくれるかなあ・・・・・・・。」

あなたに「好き」って言って、散々振り回してごめんね。
いつかこんな日が来るって、判ってたのに「好き」って言ってごめんね。
ただの人になって、最後まであなたと一緒に無駄に戦い続けていたかったけど・・・・・・・・

それは自分の我儘だから。






一歩前へ進む。
セフィロスの気配は先程よりもずっと強くなっていた。

昔から・・・・・・バレバレだったって、言ったでしょ?

くすりと笑いが漏れた。
今までも、ずっと後を追って来ていたのは判っていた。
けれど今その気配の中に、今までには決して感じる事のなかった自分への殺気を認め、エアリスは祭壇の前に膝を着いた。












『間に合うとでも思っているのか。』

どこからかセフィロスの冷笑が聞こえたような気がして、エアリスはぶるっと震えた。
つかえた呪文を、気を取り直してもう一度口にしようとする。

『途中でお前は命を落とす。結局は無駄だったのだと知りながら死んで行くのはどんな気持ちがするのだろう。』

まるで舌なめずりをするようにうっとりと語りかけるセフィロスに、何だか無力感が闇のように迫って来るようで、エアリスは自分の両肩を抱き締めた。

「・・・・・・・・どこよ。」

声の主はどこにいるのかと頭を巡らす。

『お前のすぐ側まで来ている。』

相変わらずセフィロスの声はエアリスの頭の中に響くだけで、すぐ側と言われる場所の特定は出来ない。エアリスの気持ちが乱れた。

『邪魔をして貰っては困る。メテオは私の情熱なのだから。』







歌うように響く冷たい声に、エアリスの血が逆流した。

「・・・・・・・・・あんたなんかセフィロスじゃ、ない。」

あの、不器用で照れ屋で、本当は誰かを傷つける事を何よりも嫌っていたセフィロスはどこへ行ってしまったのだろうか。

『私もお前など知らない。』

自分の呪文を攪乱させるためなのだろうか、セフィロスは嬉しそうに笑っていた。挑発に乗っていると判っていても、エアリスは言葉を継がずにはいられなかった。

「止められる物なら止めてみなさいよ。あなたの情熱なんて知ったことじゃない!」




でもそれはきっと狂ってしまったセフィロスの唯一の生きる証。
メテオを発動させ、この星を滅ぼして、全てに復讐したいと思っているセフィロスは、それだけを自分が生きている理由と思い、長い長い間昏い情熱を注ぎ続けていたのだろう。

「だから。」




だから、あなたのメテオを止める私の命はあなたにあげるから。


エアリスは静かに目を閉じると、一切の音を遮断するように深い祈りに入った。
セフィロスの声は、最早そこには届かなかった。














終わった・・・・・・・・・・・・・。




呆然としたようにエアリスが目を開いた。
最後まで祈りを唱えられる確率は低いと思っていた。
そして自分はまだ生きている。



・・・・・・・・・ホーリーを唱える時間を、私にくれたの?
それはあなたの望みでもあったの?




気配だけは濃厚なのに姿を現さないセフィロスに、エアリスが顔を上げた。セフィロスに包まれたような気がした。耳元で誰かが囁いた。




「オレと一緒に行かないかエアリス。」




その時初めて懐かしいセフィロスの本当の声が聞こえた気がして、エアリスは一瞬微笑んだ。

正宗の切っ先がエアリスの背中に吸い寄せられるように沈んだ。

「地獄まで?・・・・・・・しょうが・・・・・・・・・」






ないなあ。





微妙に笑ったまま息絶えたエアリスの思考はそこで止まった。












セフィロスは、エアリスの体を貫いた剣を引き抜いた。
吸い込まれた時と同様に何の抵抗も摩擦もなくそれはするりと抜けて、下に向けた切っ先から一滴の赤い血が零れた。




オレのメテオは君のホーリーで止められるだろう、エアリス。
君の命の代償はオレが自分で払うのだろう。
オレは・・・・・・・その時を待っていればいいのだろうか。




「・・・・・・・・・君の血は・・・・・・・赤かったんだな・・・・・・エアリス。」

自分とエアリスとの違いをまざまざと見せ付けられたような気がして、セフィロスは唇を歪めて笑おうとした。
エアリスの血が染み込んだ場所に、血とは別の透明な何かが一粒零れ落ちた。

そしてその時、最早何の必要もなくなった、コピーの中に残された最後の理性が、自らの意思で奥底へと姿を消した。















セフィロスは、目の前に転がる見知ったような、どこの誰とも判然とはしないような人間の死体を見下ろした。
確かこの娘は・・・・・・・この星で唯一ホーリーを唱える才に恵まれた女だった筈だった。その娘が死んでいるという事は、自分の計画が滞りなく進んでいる証拠だった。


そしてそこから後は、セフィロスの目の前でゆっくりと繰り広げられる茶番劇のようだった。
人間が大勢、どこから沸いてきたものか次から次へと現れ何かを叫び、取りつかれたように死体の回りに群がっていた。

だからその女はもう死んでいる。
一目瞭然ではないか、とセフィロスは思う。

怒声と号泣と、寒々しい喜劇のような大騒ぎの中で、セフィロスは亡骸を抱き締めるようにして震える一人の男に目を向けた。

あの男は・・・・・・・・・確か・・・・・・・・・

曖昧な記憶が蘇る。
ふいにその傷口に爪を立ててやりたい衝動に駆られ、セフィロスが口を開いた。
この男を傷つけ、自分をどこまでも憎ませて、そしていつか自分はこの男に…

セフィロスが軽く頭を振った。




「黒マテリアを・・・・・・・・ありがとう。」




冷たく宣言するようなセフィロスの声に、クラウドの肩がはっきりと震えた。
それを見る事もせずにセフィロスはその場所を立ち去ろうとする。

喰いしばった歯の間から絞り出されるように、切れ切れの言葉がクラウドの口から漏れた。
その呟きがまるで風に乗ったかのようにセフィロスの耳元にまで届く。

「・・・・・・・と・・・・でな・・・し・・・・・」

嗚咽を含んだ怨嗟の声は、木石をも動かすほどの怒りと絶望に満ちていた。
けれど、その感情は決してセフィロスには届かない。
だから何だと言うのだろうか、と思う。

「そうなのだろう。」

振り返りもせずにセフィロスが答えた。
どうせ。







人であった事など
生まれてからただの一度もないのだから。






                           







                                        

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