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I LOVE YOU





「遅かったね。」

セフィロスが後ろに立ったので、エアリスは顔を上げずに声をかけた。
そのまま書きかけの手紙を仕上げてしまおうと思っていたのに、いつまで経っても返事もせず動きもしないセフィロスを不審に思い、ついに振り返った。

セフィロスは乱雑に置かれた壊れかけの机の一つに座って、エアリスを眺めていた。

「・・・・・・・何バカみたいな顔して立ってんの?」

本当にバカみたいだ、と思ったのでエアリスは思ったままを口にする。

「君は・・・・・・・・。」

「・・・・・・・なに?」

セフィロスが小さく首を傾げて訝しげにエアリスを見る。

「・・・・・・・オレの気配が判るのか。」

なんだそんな事、とエアリスはぷっと吹き出した。

「当たり前じゃない。どこから来たってすぐ判るよ?」

何でもない事のように言うと、エアリスは再び前を向いて机に屈み込んだ。

セフィロスはまだ思案げな表情をしたまま黙り込んでいる。

「あのねえ。」

ついにエアリスがペンを置いた。

「気配、っていうより教えてくれる、って感じかなあ。」

「・・・・・・・・誰が?」

「知らない。誰かが。」

そう言ってエアリスは肩を竦めた。

「・・・・・・・・・・オレが後ろに立った気配を感じるようなヤツはいないと思っていた。いや・・・・・・他には誰もいない筈だ。」

セフィロスがエアリスの机の側に寄って、そこに広がった紙を覗き込む。

「うわ、しょってる!知らなかった?いつだってバレバレだよ?そんなんでよくやられないなあって私、いつも・・・・・・・・・・ちょっと!見ないで!」

セフィロスの指がエアリスが書いたばかりの文字をなぞっているのを見て、慌てたようにエアリスが言った。

「・・・・・・・心配しなくてもいい。」







オレは字が読めないから。







そう言ってセフィロスは育てかけの花の苗の様子を見始めた。








セフィロスが枯れた葉や咲き終わって萎んだ花を丁寧に摘み取り始めたので、エアリスはもう一度手紙に集中しようとしたが、やがてそっとそれらを一纏めにして小さな声でセフィロスを呼んだ。

「・・・・・・ねえ。」

「・・・・・・何だ。」

「誰も・・・・・・あなたに字を教えてくれなかったの?」

暫く間があってセフィロスが答えた。

「別に必要もなかったから。・・・・・・・戦うためにも、暮らしていくためにも。一度聞いた事は忘れないし、字が書けないからと言って困った事もない。」

・・・・・・・・・質問に答えてないよ。

エアリスはそう思ったけれど、それ以上の追求はしなかった。
世の中には『学校』という物があるのだとエアリスも聞いた事はある。
そこは決して特別な場所ではなかったけれど、それでも、親が子供に通学をさせる意志がなければ通う必要もなかった。通わない子供達には、自宅で家庭教師に着く裕福な子もいれば、学校へも通わず町をたむろする子供もいる。
そして、町の子供達の識字率は極端に低かった。

学校は、普通に生まれて、普通に愛されて、普通に暮らしている子供達が行く所。エアリスはそこをそんなふうに解釈していた。
けれど、逃げ、隠れるように住んでいたエアリスには両親がいて、そしてその両親は惜しみなく自分を愛し、膝の上に乗せて学校で学べる筈の全てを、否、それ以上を教えてくれようとしていた。

この人は、どこでどんなふうに育ったんだろう・・・・・

時々とても身近に感じられる人物の過去を自分は殆ど知らない、とエアリスは思った。

「じゃあ・・・・・・・教えてあげるよ。」

少し考えた後にエアリスが言った。

「何を。」

「字の書き方と読み方。」

「結構だ。」

間髪を入れずにセフィロスが答えた。

エアリスがむっとしたように口を尖らせる。

「・・・・・・・かわいくないなあ。いいじゃない。あなたならすぐ出来るようになるってば。便利だよ?字が書けると。手紙も書けるし。」

君にかわいいと思われなくても結構だ、と答えようとしたセフィロスは、『手紙』という初めて聞く言葉に奇妙な引っ掛かりを感じた。

「・・・・・・・・『手紙』というのは?」

この人は手紙を貰った事すらないのか、と思うとエアリスの胸が小さく痛んだ。

「・・・・・・・・今私が書いてるようなの。こうやって、書いて封筒に入れて、相手に送るんだよ。」

セフィロスはもう一度机の側へやって来ると、薄いピンク色をしたまだ何も書かれていない封筒をつまんで眺めた。

「ここにこうやって相手の名前を書いてね。それから差出人、つまり私の名前も書くでしょ?そうすると、受け取った人は私からの手紙だって判るんだよ。」

ふんとふうんの中間のような曖昧な返事をしてからセフィロスが再び尋ねた。

「これは、誰に宛てた手紙なんだ?」

エアリスが薄っすらと笑って「父さんと母さん。もう死んじゃったけど。」と答えた。

「・・・・・・・・死んだ人にも届くのか?」

セフィロスの勘違いが何だか泣けるほど可笑しくて、やっぱり胸のどこかが痛くて、エアリスは目尻に涙を溜めながら笑った。

「届くわけないじゃない!だからこれは・・・・・・・・出さないの。出さないけど、こうすれば父さんと母さんに聞いていて貰えるような気持ちになるでしょ?」

エアリスに笑われてむっとしながらも、その泣き笑いに何だか教えてくれるという好意を無駄にするのも躊躇われて、セフィロスはむっつりとしたままエアリスの横に座った。

「教えて貰う気になった?」

エアリスが人差し指で目尻の涙を拭いながら言った。
セフィロスが黙って頷くので、エアリスは今自分が書いていた手紙を二人の真ん中に置くと、指で文字を辿りながらゆっくりとその言葉を読んでいった。



昔、父さんが私に教えてくれたみたいに。


時々セフィロスがその音がどうしてこういう文字になるのか、と質問を挟む。

「うんとね、音の通りに書くわけでもないんだよ。例えば、ラブだったらL-A-V-Uって書くと思うじゃない?最初は。でも、いろいろ決まりがあってね。」

エアリスは様々な例を引きながら、自分が両親に向かって綴った「I LOVE YOU.」の書き方を説明していく。
セフィロスはあっという間に発音と表記の関係を掴んだらしく、納得したように頷いた。

「それで・・・・・・・これはどういう意味だ。」

エアリスは最初セフィロスが何を聞いているのか判らなかった。
セフィロスの指が「love」という単語の上に置かれている。

「え?だって・・・・・・・・」

生まれた頃から自分が言われ続け、自分も口にし続けた言葉をセフィロスが知らないという事が信じられなかった。
この人は生まれてから15年間、ただの一度も、誰からも「愛している」と言われた事がないのだろうかと思うと、返事のしようがなかった。

「Iは君だろう。そしてyouは君の両親。じゃあloveは?」






何だか胸が一杯になって、次の瞬間エアリスはセフィロスを両手で抱き締めていた。

「あなたがいてくれて嬉しい。あなたがとても大事。あなたが愛おしい。・・・・・・・・そんな気持ち、だよ。」

頬に当たるセフィロスの耳が熱かった。
そっと視線を寄せると、そこだけが真っ赤になっていた。




「もういい。判った。」


ぶっきら棒に言われて、エアリスはくすっと笑うと腕を解いた。

「じゃあ、今度は私が読むから、セフィロスが自分で書いてみて。」

座りなおして横を見ると、セフィロスは強張ったようになって身じろぎもしない。エアリスは便箋を一枚横に滑らせて、小さな声で自分が書いた手紙を読み始めた。
セフィロスはもう顔を上げなかったし、何の質問も挟まず、エアリスの声を黙々と文字に綴っていった。






紙の上を滑るペンの音が、いつしか止んでしまっている事にエアリスは気付いた。

「・・・・・・セフィロス?」

半ば咎めるように隣を見ると、セフィロスはペンを置き、頬杖をついてこちらをぼんやりと眺めている。

「どうしたの?ちゃんと練習しなきゃ、上手くならないよ?」

エアリスの声にそのままの姿勢でセフィロスが答えた。

「こうやって・・・・・・・・隣に誰かが座って何かを教えてくれるのは・・・・・・・・いいものだな。」

「・・・・・・そう?」

エアリスがにっこりと笑った。

「じゃあ、続けて。どこまで書いたの?」

エアリスに言われて素直にペンを執ったセフィロスは、一度聞いただけで覚えた、まだ綴っていなかった手紙の文章をさらさらと記し始めた。
教会の中は再び静寂に包まれ、エアリスの声とセフィロスのペンの音だけが響いた。





「エアリス。」

ふいに名前を呼ばれてエアリスが便箋から顔を上げた。

「何?」

セフィロスの唇がエアリスの顔を見詰めたままゆっくりと「I love you.」と動いた。
音を伴わないその動きにつられるように、エアリスの顔が見る見るうちに真っ赤になって火を吹きそうになった。

「何と言ったか判ったか?」

真面目な表情で問われて逆上したようにエアリスが叫んだ。

「なっ・・・・・・なに!!突然!なにバカ言ってんのよ!」

「・・・・・・そうかな。」

赤くなっているエアリスには構わず、セフィロスはひょいと肩を竦めると立ち上がった。
そして机の上にあった紙の上にさらさらとペンを走らせる。

「どうやって綴るのかも十分判った。ここに書いておく。」

書き終わった紙を二つに畳んでエアリスに渡すと、「水を汲んでくる。」と言ってセフィロスは教会から出て行った。





「・・・・・・・・なーにが『Ilove you.』よ。ふ・・・・・・ふーんだ。バッカじゃないの?もう。」

両腕を後ろで組みながらぶつぶつと独り言を言っていたエアリスは、やがて意を決したように机に近付くと、セフィロスが残した便箋を手に取り、そっと開いてみた。
そこに綴られた文字『I LOVE YOU』に、自分はどう応えたらいいのだろうかと思うと胸がどきどきする。




紙片の中央には少し細い、丁寧な筆跡で『oliveoil』と書かれているだけだった。




「オリーブオイル…」

エアリスは硬直しながらその言葉を口にした。
・・・・・・・・・やられた、と思う。


紙を握り締めたエアリスの手が怒りに小さく震えていた。
一度聞けば何でも覚えられると言っていたのは嘘ではなかったらしい。オリーブオイルという言葉をどう綴ればいいのか、彼は見事に会得していた。
けれど、セフィロスに「オリーブオイル」と言われて、殆ど同じ口の形で発音される言葉だと思い込み、真っ赤になった自分の間抜け面を思い出すと地団太を踏みたい気持ちだった。

「そう。…そうね。よく綴れているわよ…」

許すものか、とエアリスは思った。






そして、閉められた教会の外側では、陽だまりの中、ドアに背を預けたセフィロスがいつまでも幸せそうに笑っていた。










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