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月を射る瞳





※注 セフィエア姉弟設定




月を射る瞳











ナナキがピクンと顔を上げた。

不審そうな表情で森の奥、一段と黒々とした一隅を見遣ると、低く唸り声を上げる。今夜は月がとても大きくて明るくて、その所為なのか闇が一層暗く見える。

何かとてつもなく禍々しい物が近付いて来る気がして、一点をひたと見据えたままいつでも飛びかかれるようにと姿勢を低くした。

「・・・・・・・大丈夫。心配しないで。」

その時低い柔らかい声が後ろから聞こえた。同時に逆立った毛並みを優しく撫でられて、ナナキの緊張が一瞬でほどける。

「エアリス・・・・・・・・だって、なんかさ・・・・・・・・」

しっ、と唇に指を一本当てて、エアリスがいたずらっ子のように笑った。

「みんなを起こしちゃ、可哀想でしょ?今日は・・・・・・・みんな疲れてるんだし。それに、大丈夫。私が危険な目に合うことは絶対ないから。」



だけどエアリス、何だか凄く嫌な感じがするんだ。何だかとても嫌な物が近付いてるんだ。まさかそこに一人で行こうとしてるんじゃないよね、そう聞きたくてナナキは訊ねた。



「一緒に・・・・・・行ってもいい?」

「ダメ。」

口調は穏やかなのにエアリスの拒絶は明らかだった。

「すぐに帰って来るから。ここでいい子で待っていて。ね?」

一緒に来て欲しくはないのだと、その言葉の中に懇願の色を見たナナキは言った。

「判った。けど・・・・・・・一時間経っても帰って来なかったら、みんなを起こして探しに行くから。」

そうね、じゃあその時はお願いするかなと言って、エアリスは森の中の闇に飲み込まれて行った。









まるでその影から闇が広がっているようだった。闇の中に一歩足を踏み入れると、もう他の音は何も聞こえなくなる。自分が歩くたびに折れているはずの細い枝を踏み締める音も聞こえなかった。





「・・・・・・・・・・・ねえ。あなたもうここへは来ない方がいい。」

闇の中に膝を抱えるようにして座る姿にエアリスが声をかけた。

「いつかみんなに・・・・・・・・・・殺されちゃうかもしれない。」

ふん、と鼻を鳴らすような乾いた笑い声が聞こえた。

「オレが?あんな奴らに?・・・・・・・・・・バカバカしい。」

「ばかなのはあなたよ、セフィロス。」

エアリスはふうとため息をついて黒い影に寄り添うように座った。

「こんな事続けていたって何にもならない。どうしてやり直せないの?あなただって・・・・・・・・神羅の英雄とまで呼ばれて、沢山の町や村をモンスターから解放した事だってあったじゃないの。」

「別に『みんなのために』戦ってたわけじゃない。」

ぶっきらぼうにそう言うと、セフィロスはぷいと横を向いた。

「姉さんこそ、いつまでこんなお遊びを続けているつもりなんだ。人間なんて・・・・・・・所詮弱い物同士で群れて、足を引っ張り合って・・・・・・・・・・それでいて異物を排除する時にだけ協力し合って。そんな奴らと一緒にいて何が楽しい?」

「・・・・・・・相変わらずだね。そんなふうにしか考えられないんだ。」

「だってオレ達は異物じゃないか。ねえ・・・・・・・・・・」

セフィロスがエアリスの目を覗き込んだ。

「人間ごっこ、していて楽しい?」

狂気が宿るこの笑みに、エアリスは何度胸を痛めた事だろうか。

「・・・・・・・人間、だもの。」

セフィロスの唇に冷笑が浮かんだ。

エアリスの視線が自信無げに揺れる。

「・・・・・・・キス、してよ。」

「いいわよ。」

エアリスがそっとセフィロスの頬に唇を寄せた。













「ちょっと!ナナキ!!」

いきなり呼びかけられて、ナナキは飛び上がるほど驚いた。

「な・・・・・!何!アレ!?ユフィ?」

どきどきと踊る心臓をなだめながらナナキはそこに立つユフィを見上げた。

「何してんの!何か来たでしょ!」

ナナキは、自分並の嗅覚、もしくは直感を持つらしいユフィの態度に内心舌を巻いた。

「ユフィも・・・・・・・気付いたんだ。」

ユフィは腰に手を当ててイライラと言葉を繋いだ。

「エアリスも、でしょ!アンタ何で一緒に行かないの!バカ!」

バカはないだろう、と思いながらもだったらユフィももっと早く来てくれればよかったのに、とナナキは何だか泣きたくなった。

「後、着けるわよ。今日こそ絶対。」

「・・・・・・・・・今日こそ?」

何よ、アンタ今日まで気が付いてなかったの?いっつも撒かれるんだけど、今日はアンタと一緒だから何とかなるかもね。矢継ぎ早に喋りながらもユフィは手足を振り、手早く体を暖めた。

「行くよ!ナナキ!!」



























「そんな赤毛の犬にするようなキスは嫌いだ。」

赤毛の犬がナナキの事を指しているのだとすぐに判ったエアリスはぷっと吹き出した。

「ナナキは犬じゃないよ。」

「・・・・・・・そんな事言ってるんじゃない。」

「大事な弟と大事な友達。どっちも大切だもん。」

軽口めいた調子にセフィロスの眉が軽く吊り上った。

「あんな奴らとオレを一緒にしないで欲しいな。」

エアリスの顎に人差し指をあてがって上を向かせると、瞳の中に月が写った。穏やかに広がっていた瞳孔がその突然の光源にきゅっと小さく丸く窄まった。



「姉さんの目は、闇の中でもまるで人間の瞳のようだ。」

「私も・・・・・・・・あなたも、人間でしょ?」

セフィロスの冷笑が一層深くなる。

「だから人間の側にいるんだ。オレと・・・・・・・・一緒にいるよりも。」

「あなたにだって選択肢はあったでしょ?今からだっていくらでも・・・・・・・・・」

「オレはもう壊れちゃったからだめ。」

二卵性の姉弟だった自分達が実験に利用された事、自分達だけが古代種の末裔なのだと知った時には、それでも二人で生きていこうと思えた。けれど、自分だけが更にジェノバ細胞を移植された異形だと知った時に、この弟の心は砕けてしまった。



「オレが壊れる時に、側にいてくれなかったくせに。」

「・・・・・・私一人残して、壊れちゃったくせに。」



姉弟は一瞬共に微笑み合った。



「キス、してもいい?」

「ダメ。」

エアリスの両手がそっとセフィロスの胸を押した。

「昔は、そんな事言わなかったのに。」

「昔って・・・・・・・私達が子供の頃でしょ?私はもう、あなたの気持ちには応えられない。」

「思い出してよ。オレ達にはお互いしかいなかったって事。それは、昔も今も変わらない。」



エアリスがゆっくりと首を振った。



「・・・・・・また来る。何度でも、姉さんを迎えに。」





















「いた!あれ、エアリスだよね!さすがだよ!やっぱ嗅覚じゃアンタに適わない。」

遠くにぼんやりとエアリスらしい服の色が見えた。そこだけ月に照らされたように浮かび上がっている。

「早く!」

ユフィとナナキは勢い付いて転がるように走った。

けれど焦る気持ちとは裏腹にまるで闇の結界が張ってあるように、そこから足を進める事ができなかった。一歩進むごとに足は重く、意志に反して体がすぐにでも向きを変えて元の場所へと戻ろうとする。

必死で進んだ先に、ぽっかりと空間が開いていて、そこにエアリスがいた。茂みから顔だけを突き出すようにしてユフィとナナキは目を凝らす。





そしてエアリスは何もない、ただ真っ暗な闇に向かって何かを語りかけていた。





「な・・・・・・・何?アレ?ナナキ、あそこに何か見える?」

ユフィはその場にへなへなと倒れ込んだ。

ナナキもその側に腹ばいになった。呼吸が荒かった。

「見え・・・・・・・・ないけど、でも、何かいる・・・・・・・・よね・・・・・・・・・・。」

暫く迷った後、首を振りながらユフィがのろのろと口を開いた。

「あたしさ・・・・・・・時々、エアリスがちょっと怖くなるんだ。」

首を傾げたナナキの横にぺたりと体をくっつけたままユフィが続けた。

「時々・・・・・・・エアリスはあたし達が知らない事全部知ってて、それでもそれを絶対あたし達には話さないんじゃないか、って思う事がある。それに・・・・・・・・こんなふうに出かけた後のエアリスってなんかさ・・・・・・・・・・・何だろう・・・・・・・まるで、魂の半分をどこかに持ってかれちゃったみたいな・・・・・・・・・・それで、残った半分も、なんかいつでもあたし達を置いてどこか行っちゃいそうな・・・・・・・・・・」



ナナキが急に立ち上がってユフィが倒れかける。

「ちょっと!急に立たないでよ!危ないじゃな・・・・・・・・!」

ナナキに文句を言おうとして、その赤毛の犬の視線の先を見たユフィが唇を閉じた。

「・・・・・・・・・お帰り、エアリス。」

そう言って喉を鳴らしたナナキの胸を撫でた後、エアリスがユフィの方を向いた。

「なんだ、ユフィも起きちゃったのか。迎えに来てくれたの?ごめんね。」

「あ・・・・・・・・・・ううん!ちょっとお腹、すいちゃってさ。」

照れ笑いを浮かべるユフィにエアリスもうふふふ、と笑った。



何だか今日はエアリスの目の色がいつもより薄く見えるのはどうしてだろう。

まるで心がここにないような気がするのはどうしてだろう。



ユフィは何て言ってたんだっけ、そう思いながらナナキはじっとエアリスの瞳に見入った。



「あたし達をおいてどこかへ行っちゃいそうな」



エアリスの魂の半分を誰かが持って行っちゃったみたいな・・・・・・・・・・



エアリスの瞳の真ん中が、いつもより何だか細いような気がするのはきっと気のせいなんだろう、とナナキは思った。





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