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ザックスの夏休み





この夏俺は海辺の温泉宿でひと夏のアルバイトをする事になった。
金欠で仕方がなかったから嫌々行ったんだけれど、実はそこですっごく可愛い子に出会ってしまった。
名前はエアリス。
いやもう可愛いのなんのって。
写真見たい?

しょうがねえなあ。


hanryu.jpg





どうよ、この可愛らしさ。
いたずら好きな彼女が

「捕まえてごらんなさいvうふふふふ!」

と言って走るので、俺はつい

「待てえ!こいつう!」

と追いかけてしまった。そんなショットさ。

俺達は波を掛け合って遊んで、全身ずぶ濡れになって、それからエアリスが足を滑らせて海の中で転んでしまった。
俺が笑いながら手を引いて立ち上がらせようとすると、エアリスが思い切りオレの手を引っ張ったので、ふいを突かれた俺も転んでしまった。
二人で頭からびしょ濡れになって、思わず顔を見合わせて大笑いしてしまった。

ふ。

思い出すだけで照れ笑いが浮かぶぜ。





エアリスは、俺が働いている旅館で同じくアルバイトをしているようだった。
けれど、俺達とは何だか旅館の扱いも違ったので、ひょっとするとこの家の親戚かなにかなのかと思った。

でも、詳しいことを聞こうとするとエアリスが「まあいいじゃないの。」と言って言葉を濁すので、それ以上突っ込むことが出来ないまま俺達は毎日楽しく過ごしていた。
そんなある日のこと、俺達が露天風呂の掃除をしていると旅館の女将が慌てたように走ってきて大声を出した。

「何してんの!急いで!!王子が帰って来るよ!」

その途端エアリスの表情がさっと曇った。

「えっ?だって・・・・・予定じゃあ八月一杯は戻らない、って。」

「それが帰って来るんだよ!急いで支度して!」

エアリスは、ごめんと言って俺にデッキブラシを渡すと風呂場を出て行った。

てゆうか王子って何だよ。

俺がぼんやりしていると女将がやれやれとため息をついた。

「・・・・・・あんた達の事に口出ししないでいようとは思ってたんだけど、王子が帰って来るとなったら話は別。あんたも・・・・・・あの子の事は諦めなさい。」

話が飲み込めずに俺はまだ怪訝そうな表情をしていた。

「あの子はね・・・・・・・びっくりガストの社長令嬢なのよ。」







びっくりガスト!







信じられない。

あの、ドリンクバーがプレミアムドリンクバーになって再登場。しかも180円で飲み放題。いや、190円だっただろうか。

女子高生が膝立てたまま携帯片手に食事をしていても何の違和感もないというゴージャスな店。

この勢いで世界制覇を狙っているとまで言われるびっくりガスト・・・・・・・・・・



俺はがっくりとその場に膝を着いた。

「アンタ・・・・・・・結構びっくりガストに詳しいんだね・・・・・・・・」

ええいやまあ、その色々・・・と口の中で呟きながらも俺の意識は乱れた。

俺と彼女は生きている世界が違うのだ。

決して釣り合わない身分の壁。



女将が気の毒そうに俺を見ていた。

だが、俺は負けない。

「エアリスは・・・・・・・王子はどこに。」

きっぱりと言って立ち上がる。

「てゆうか王子って何よ。」

素に戻って尋ねると、女将がまた照れたように素に戻って答えた。

「まあ・・・・・・・ひと目見りゃ王子だって判るよ。王子でなきゃ・・・・・・・あり得ないね、あの格好は。多分足湯広場に馬繋いでると思うけど。」



俺は、一目散に足湯広場へと走った。






俺は足湯広場へ走った。


そこに王子がいた。



hanryu2.jpg




「お・・・・・・・王子・・・・・・・・。」

呆然と口を開けている俺を見て王子がフンと笑った。

「ほう。よくオレが王子だと判ったな。」

そりゃ判るだろう。
この普通じゃない感覚。

しかし彼は俺の驚きを勘違いしているようだった。








  
真夏のビーチで革のコートの暑苦しさに俺は言葉が続かなかった。

「わかったら下がれ庶民。エアリスはお前のような物が近付いてよい存在ではない。俺か?聞きたいのかそうか俺はエアリスの許婚者だ。」

聞いてもいないのに続ける。

「エアリスはやがて『びっくりガスト』を背負い、何千、何万という社員とその家族を率いていく存在だ。オマエなどにそんな彼女を精神的に支え、いざと言う時には経済的にもバックアップしてやる力があるのか。」

どうして俺が恋敵だって判るんだろうか。謎だ。
もし無関係だったらコイツ結構恥ずかしいだろう、と思っているとふふん、と冷笑した王子がふいに真顔になって問い掛ける。



「いやだが待て。まさかお前、実は大金持ちの幼い頃に誘拐された御曹司だったり、電子工学を学ぶ苦学生で数年経ったらIT長者とか、そんな隠れ設定を背負ってはいないだろうな。」

なんだそりゃ、と思わず口に出したら

「ないのか。それならいい。何しろ・・・・・・・韓流だからな。」

そうか、韓流だったのか!
何だか世界がおかしいと思っていたんだ!
このB級感、やっつけっぷり。

それならまだ俺にも勝機はある!と俺は思った。

「ウソだ!」

俺は絶叫した。

「キミが好きなのはオレだ!!本当の事を言ってくれエアリス!!!」

俺はエアリスの肩を掴んで思い切り揺さぶった。

「ウソじゃない。・・・・・・・・私が好きなのは・・・・・・・・セフィロスよ!」

エアリスがわっと顔を手で覆う。ノリがいい。

「・・・・・・・・濃いな。まだ二話目だぞ・・・・・・・・。」

王子が照れたように呟いた。いや、アンタに照れられるとこっちも恥ずかしい。素に戻らないで欲しい。

そうえばセフィロス・・・・・・・とかいうこいつの名に俺は実は聞き覚えがあった。

それにこいつの顔・・・・・・・どこかで見たことがある。

俺の思案にも気付かずセフィロスが滔々と続けた。

「エアリスは父親が失踪した後、たった一人で父親が残した定食屋を一大外食チェーンへと育て上げた愛する母親がいるのだ。その母親を安心させてやる事が何よりの親孝行。ふ。オレも母一人子一人だったからな。エアリスの気持ちは良く判る。」

それを聞いて俺は思い出した。

「思い出した!あんたジェノヴァ美容外科のどら息子だろう!あの豊胸専門医!こないだ誘拐されてなかったか!?」

「・・・・・・・・あれはオレのコピーだ。」

セフィロスが憮然とした様子で呟いた。

「コピー?あんたコピーロボット持ってんのか!いいなあ!あののび太が持ってたやつだろ!?」

「そうそう。見分けるには鼻の色がポイントなんだよね。コピーは鼻が黒くって・・・・・・・・って違うだろ!?」

・・・・・・・自分で乗ったくせに怒りっぽい奴だ。
それにしても・・・・・・・豊胸専門か、と思ってちらりとエアリスの胸元を覗いたら思い切りどつかれた。

「コピーコピーとか言って、案外あんたもコピーなんじゃないの?お母さんにいろいろいじられちゃって実はどれが本物かもうわかんなくなっちゃっててさ。」

そう言った途端にセフィロスが青ざめ、小さく体が震えだした。

「オレが・・・・・・・オレが作り物?そんな・・・・・・・・そんな筈は・・・・・・くっ・・・・・・・母さん・・・・・・・ああ!頭が割れるように痛い!!思い出せない!!」

うわあ、記憶喪失かよ。ベタベタだなあ、と思いつつも、作り物とまでは言わなくても母親の職業が職業だし、顔にお直しの一つや二つ・・・・・・と続けようと思っていたのに、セフィロスの反応が普通ではないので俺はうろたえてしまった。

「あれ?・・・・・・・・・ちょっといいとこ突きすぎちゃった?」

照れ笑いをしてエアリスを見ると彼女が困ったように

「それは言わない約束になってるんだけど・・・・」

と言った。
え?何?マジでお直し入ってんの?
躊躇えているとセフィロスがおもむろに姿勢を正して言った。

「知らないのか。韓流のキーワードは『母さん』だ。主人公は大体マザコンと決まっている。自分を捨てた母を恨んだり、死んだ母親の形見を握り締めて泣くのだ。」

泣くのだ。

とか言われても。





膠着したまま話が進まない。
するとその時、旅館の女将が息せき切って走って来た。

「大変だよエアリスちゃん!!!あんたのお父さんが帰って来た!あんたを訪ねてここまで来たんだよ!」

ええっ!大変!!

とばかりに振り返ると、そこに人の良さそうなおっさんが立っていた。

「いや?、新メニュー探して世界を放浪してたらあっという間に時間が経っちゃってさあ?。」

「初めまして。貴方がガスト・ファミレス博士、エアリスのお父上ですね。」

すいと王子が一歩前に出る。エアリスが

「ファミレスじゃなくてファレミスなんだけど………」

と気まずそうに呟いた。

「いやいいんだいいんだ。ガストと言えばファミレス。君も案外ファミレスに詳し……」

暢気そうに頭を掻いていたおっさんが顔を上げてセフィロスをみた途端に表情を一変させた。

「き・・・・・・・キミは・・・・・・・ジェノヴァ!?」

いきなり緊張する空気。

「ジェノヴァは母ですが。・・・・・・・・・それが何か?」

「するとキミはセフィロス!!!」

おっさんの動転にも気付かず、いきなり体勢を整えたセフィロスがエアリスをエスコートするように腕を回した。

「ええ。そしてエアリスの許婚者です。」



「ええっ!!!!????」



おっさんがその場でよろめいて後ずさった。





「君が・・・・・・・ジェノヴァの息子・・・・・そして、エアリスの許婚者・・・・・」

突然現れたエアリスの父親だというおっさんは、うろたえたように呟いていた。
その驚愕っぷりに呆然としていた俺の中でも相当時間が経ってしまっていたようだ。まるで正月休みのように寒い。
正月休みってそりゃマズイよ。
うちのかーちゃんは盆と正月は故郷に帰らないとうるさいんだって。そういう所厳しいんだよ。
俺は、今は夏休みだ、夏休みだと自分に暗示をかけるように唱えた。

「ええっと。どうもそうらしいんですけれど、それが何か。」

俺はへらっと尋ねてみたが、相手は俺の言葉なんか聞いちゃいなかった。

「僕は・・・・・・・取り返しのつかない事をしてしまったのかもしれない。そうか聞いてくれるか。僕は・・・・僕はかつてジェノヴァの遺伝子を残す事に協力してしまったんだ。」

聞いてもいないのに滔々と語る姿が、デジャヴを起こさせる。王子と同じ人種か…っていうか、アレ?今の俺の聞き間違い?遺伝子を残すって事はえーっとえーっと……
これってひょっとして韓流の王道、実は兄妹でした!!!ってヤツ!?

「いやあまあ、若気の至りっていうか、昔ジェノヴァちゃんがまだ医局員だった頃ラボで知り合ってね、色々あってその気になっちゃって。でもその後定食屋のイルファナちゃんに出会ってね、彼女のために食材探しのフィールドワークに出てたら、あっという間に30年近く経っちゃって・・・・・」

人の良さそうな笑顔でぽりぽり頭掻いてるんじゃねえって!
俺は辺りの凍りつきそうな空気に顔を引き攣らせた。これは正月休みだから寒いんじゃない。あっちの、王子のいる辺りからブリザード級の寒波が押し寄せて来ている。

てかアンタ、自分のした事の責任ちゃんと取れよ!!!
俺は思った。間違いない。こいつは理系の空気読めない系のまま、食材探しに出て放浪していたに違いない。俺みたいな武闘派のほうがよっぽど世間に気を使って生きてるっつうの。

「あのー、ちょっと整理してもよろしいでしょうか。」

と、俺はのろのろと口を開いた。

「つまり…ここにいる王子とエアリスは…二人ともあなたの子供だと……」

「ク…クク……」

81?という突っ込みはさすがに控えた。王子が変な笑い方をしていて怖いったらありゃしない。
どうなる事かと様子を見ていると、いきなりうわああ!!という絶叫が辺りに響いた。

「だから韓流は嫌だって!記憶喪失とか異母兄妹とかもう油断も隙もないって言っただろうが!」

こういう流れになるのはしょうがないじゃないか、と思う。
が、王子がイっちゃってるって。
いきなりムチを振り上げると俺に向かって一撃を浴びせようとするものだから、俺も焦って、一歩飛びすさると、首に巻いていた豆絞りを抜き取ってそのムチを受け止めた。

「フン。中々やるな。だが貴様にはエアリスは渡さん。」

いやちょっと待って。
だってアンタ達兄妹だって。てゆうか、そこにいる元凶!何とかしろよ!!
必死に応戦しても所詮豆絞り。攻撃も何もないままに王子のムチが俺の頬を掠めた。

「ザコが。」

うわ。何?カンジ悪!!!!
俺は王子のひと言に酷くむかついたけれど、その同じ口からエアリスに向かって
「君はオレの天使だ女神だ運命だ。」
と言い放った時には開いた口が塞がらなかった。

ツ…ツンデレ……!?

「アンタ、ツンデレキャラかよ!」

「当たり前だ。韓流の王子と言えばツンデレに決まっている。」

決まってんのかよ!!
てか自分で韓流は嫌だって言ってたくせに!
俺は何だかもう泣きたくなった。
泣きたいよおかーちゃん。
そう思った時に、俺の手からそっと豆絞りの手ぬぐいが取られた。

「しょーがないなあ。」

ぐっと涙をこらえて手ぬぐいの行く先を見ると、その声の主、エアリスが頭の上にかぶって、きゅっと締めているところだった。そして、都合よく置いてあったホウキを手に取って辺りをかいがいしく掃除し始めた。

「もうお母さん忙しいんだから、ケンカしないでみんなで仲良くしなさいよね。」

こ…これは………!!!!!

かつて、月野うさぎが生み出したと言われる、あの伝説の大技『みんなのお母さん』!!!!!!

俺は口も利けなかった。
しかも何かみんな癒されてるし!!!

俺は、打って変わって平和ボケしたように和やかな雰囲気の中、がっくりと両手を突いた。



すみません。
みんなのお母さんに横恋慕した俺がバカでした。
所詮叶わぬ恋でした。



「まあいいだろう。今回だけは見逃してやる。」

勝ち誇ったように王子が言った。

「何でアンタに見逃して貰わなきゃなんねえんだよ!」

けれど俺の強がりは辺りに空しく響くだけだった。そして、
だから韓流は嫌だって!
セフィロスのその言葉がいつまでも脳裏にこだましているような気がした。







                         






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