スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

花咲く丘



花咲く丘








「クラウド?」

せっかく走って来たのに。
待っててくれると思ったから。








エアリスは軽く頬を膨らませるとドアから直ぐに続くリビングを見回した。
クラウドが奥へと向かった通り道が一目瞭然だった。ドアの横にまず片方の靴、一歩先にもう片方が転がる。

「・・・・・・・ソックスは立ち止まって脱いだわけ、ね。」

一箇所に丸まった靴下を見て、エアリスはふうとため息をついた。

「いつかちゃんと言ってやらなくちゃ。」

リビングの先にあるバスルームへと通じるドアの手前につなぎが落ちていた。

「・・・・・・・頑張ってるね。こんなに汚れてる。」

エアリスは、床に脱ぎ散らかされた汚れた作業服をつまみ上げようとして顔を顰めた。
鼻の上に可愛らしいシワを作りながら顔を近づけると、クンとその匂いを嗅いで唇をへの字に曲げる。
近づけようとしていた手を引っ込める。

「・・・・・・・やっぱり自分で洗濯機に入れて貰おうっと。」

それよりも盥に水を張って自分で洗って貰おうかな。そうだ、洗濯板ってまだ持ってたっけ・・・・・・・
エアリスはバスルームに向かうと、開けっ放しのドアから中へするりと入り込み、山と積まれた白いタオルに頬ずりをした。

「・・・・・・いい匂い・・・・・・・。懐かしい匂い。」

うっとりとしたように呟く。

「クラウド?シャワー・・・・・・じゃない、よね。」

シャワーブースのアクリル壁を覗き込むまでもなく、そこには人の気配も立ち昇る湯気もなかった。





一度大きく深呼吸をすると、エアリスはクラウドの寝室へと向かった。

「・・・・・・いないの?クラウド。」

確かに帰って来ている筈なのに。
こんなに家中散らかしたままで一体どこに行ってるんだろ。

開け放たれた窓の前に立つと、一際大きな風が吹き込んで部屋の中に春の埃が舞った。
小さな家に寄り添うように一本だけ立っている背の高いセコイアの葉が風に揺れていた。

「うーん。春の大掃除日和、ね。クラウド、早く帰ってくればいいのに。」

大きく伸びをするとエアリスはいたずらっ子のような微笑を浮かべ、やはりこちらも開けっ放しのままのクローゼットの中に入り込んだ。膝を抱えて背中を丸め、長いコートの影に隠れるように座る。

「クラウドの匂いがする。」





一度肩を竦めると、くすんと鼻を鳴らして微笑んだエアリスは膝の上に頭を乗せて目を閉じた。

帰って来たら汚れた物を全部纏めて、一緒にお洗濯をしようね。
リネンもカーテンも洗って、ニオイアヤメの根と煮ようね。
そうしたらセコイアの木の横にロープをいっぱい張って、全部一度に乾かそう。

そうして同じ香りにくるまって、目が覚めるまでゆっくり眠ろう。

「クラウド・・・・・・・大好き。」











「エアリス?」




・・・・・・・眠ってしまっていたのかもしれない。
クラウドの声が聞こえたような気がした、とエアリスは思った。


「エアリス?どこだ?」

・・・・・・・もうちょっとここで隠れていようかな。
驚かせるのも悪くないかもしれない。
それに…せめて脱いだ靴くらい自分で片付けなさいよね。

「おい!ティファもユフィももう帰るって言ってるぞ。見送ってやらないつもりか?」

クラウドの声がだんだんと不機嫌になって来る。
でもそれは心配してくれてるからなんだよね。

・・・・・・・・いっつもそうだったよね、クラウド。

「もう知らないからな!せっかく来てくれているのに会わないのか?10数えているうちに出て来い!いいか!?」

クラウドが歩き回っている足音が聞こえる。
足音はリビングからバスルームへ向かって、そこで暫く立ち止まる。

・・・・・・・タオルの匂い、嗅いでるんでしょ。

エアリスがくすくすと忍び笑いを漏らした。

それから、大股ですこし急くような足音が近付いて来た。クラウドが数えるカウントがもう少しで10になる。
乱雑にかけられた洋服類の間を縫って両手が差し込まれ、重いコートが掻き分けられるとクローゼットの中が光で満たされた。

「エアリス!」















エアリスがいる筈がないって、判ってたけれど。
どこだ?と聞くのも、見送ってやらないつもりかと大声を上げるのも…全ては虚空に向かって自分を納得させるためだけの物だって、判ってたけれど。
だけどコートの隙間から、なんだかピンク色の蝶が飛び立ったような気がした。





目の錯覚だって、判ってるんだけど。




家中にニオイアヤメの香が漂っていた。
ナナキが森中を探して山ほどニオイアヤメの根を掘ってくれたんだと言って、ティファとユフィが突然押しかけて来た。
朝から大騒ぎだったんだエアリス。
庭に火を炊いて大釜に湯を沸かして。

旅の途中であんたが教えてくれたんだ、って言ってた。
どんなに嫌な物が染み込んでいても、洗った後に洗濯物をニオイアヤメの根と一緒に煮ると、懐かしくて暖かい香りになるんだってな。

二人ともまるで大鍋で何かを煮ている魔女みたいだって、あいつらおかしくて涙流しながら笑ってたぜ。最後は顔がぐちゃぐちゃだったんだぜ?なあ、バカみたいだろ?


最初に洗ったタオルはもう乾いて、バスルームに積み上げてあるんだ。
だから今は・・・・・・・


家中あんたの匂いがする。

ティファもユフィももう帰るから、今煮たシーツやら何やらは俺が自分で干せ、だってさ。
セコイアの横にロープを張って、そこに干したらいいかな。
きっと直ぐに乾くだろうな。



そうして乾いたシーツにくるまって、目が覚めるまでゆっくり眠ったら ………









…今はもうどこにもいない、あんたに夢の中で会えるかなあ。














| TOP |


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。