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ひそやかに僕は願っているから






「スピードを落とせ。」

防弾ガラスで覆われた静かな車内にルーファウスの声が響いた。
ハンドルを握る運転手、助手席にツォン、後部座席にルーファウスが座る車は速度を落とした。後続する護衛車も当然のように急ブレーキをかける。それに続く車が派手にクラクションを鳴らすと、護衛車から身を乗り出したレノがタイヤを打ち抜いた。

「どうしました?」

ルーファウスのレセプション用スピーチ原稿に目を通していたツォンが尋ねた。

「あれは誰だ。」

ルーファウスが指差す先には二人の男女がいた。舗道の上をゆっくりと歩いている。

「・・・・・・セフィロスです。」

一瞬眉を上げて二人を認めたツォンは、それがどうかしたか、というような口調で答えた。

「馬鹿。そんな事は聞かなくても判る。セフィロスと一緒にいるのは誰だと聞いているんだ。」

セフィロスの横で、くるくるとスカートを翻して踊るように歩いているのはエアリスだった。

「・・・・・・ご存知ないんですか?」

ツォンの答えにルーファウスは苛々と声を上げた。

「知っていたら聞かない。もう一度言ってやろうか。あの、アイシクル土産にお前が僕にくれた物と同じ帽子を被っている女は誰だ。おまけに、帽子と揃いのマフまで身に付けている女は誰かと聞いているんだ。僕にはマフがなかったのは一体どういう訳だ。」

ツォンは無難な質問にだけ答えた。

「・・・・・・毛皮の帽子はアイシクルの特産です。どこにでも売っている。ただの偶然でしょう。」

ツォンの返事はルーファウスの機嫌を更に損ねただけだった。

「・・・・・・セフィロスはどうしてあんなに楽しそうなんだ。あんな顔、今までに見た事がない。」

「爪を噛む癖は直して下さい。」

それだけ言うと、ツォンは視線を下げて原稿のチェックを再開した。

「集音しろ。」

ルーファウスの声に書類から顔を上げたツォンの目がほんの少し細くなった。

「盗聴しろと、そう仰るんですか?」

「耳がおかしいのか。そんな品のない事は言っていない。後ろの車に指令を出せ。音を拾わせるんだ。」

一拍置いてツォンが車に付けられた無線を手に取った。

「右前方7メートル。男女二人連れの会話をこちらに流せ。」

「了解、っす!」

元気よく答えを返して来たのはイリーナだった。男女二人連れは他にもいる筈なのに何の質問も挟まない。それ程その二人は目立っていた。そして間髪を入れずにエアリスの声が車内に響いた。

「ねえ、さっきの主人公、私に似てたよね。」

伸び上がってセフィロスの耳に精一杯近付こうとしているエアリスの姿とともに、その声がまるで同じ車の中にいるかのように聞こえてくる。
盗聴など慣れ切った仕事のはずなのに、何故かツォンの心臓が一度どくんと鳴った。

「さっきの・・・・。映画の事か?見ていなかったからよく判らなかった。」

低く、柔らかい声だった。

「見てないの!?信じられない。興味がないんだったらそう言えばいいのに。映画、つまらなかった?他に行きたいところ、あった?」

「別に。君と一緒にいられるのならどこでも構わないんだ。」

車内に奇妙な沈黙が流れ、運転手のハンドルが微妙にブレた。ツォンは右手で口元を押さえると天井の一点を睨んだ。

「ああそういえば。」

ふいにセフィロスがエアリスの方を振り向いて言った。

「最初に出てきた時に君に似ているかもしれないと思った。君のように口を開けて大笑いはしないけれど。」

ひどい!と言って笑いながらセフィロスを叩こうとしているエアリスを見て、ツォンが無線のスイッチに手を伸ばそうとした。

「待て!まだ・・・・・・・!」

ルーファウスに制され、ツォンの動きが止まった。
エアリスがぶつぶつと何かを言い、セフィロスの笑い声が響き、そしてそれから何やら機嫌を損ねたらしいエアリスが先に立って歩き始めた。

「エアリス!」

セフィロスがエアリスを呼ぶ声を聞いてルーファウスの眉が上がった。ツォンが無線を切る。

「・・・・・・全くのプライベートです。これ以上聞き続けていても得る物はないと思われますが。」

「エアリス。聞き覚えがある名前だな……」

ルーファウスの視線はツォンを通り越してセフィロス達を追っていた。それにつられるようにツォンも窓の外を眺める。エアリスが小走りに歩を進めたところで、セフィロスがその広い歩幅で足早に歩けば、二人の間の差はみるみるうちに縮まって行く。
エアリスに追いついたセフィロスが、その身体の後ろから腕を回した。





「おい・・・・・・・あれは・・・誰だ。」

呆然としたようにルーファウスが呟いた。

「ですから、エアリスです。社長から名前をお聞きになった事があるんでしょう?」




ルーファウスのこめかみが微かに痙攣した。

「お前・・・判って言っているんだろう。僕が聞きたいのは、あそこで、あんな醜態を晒している男が誰か、という事だ。」

ツォンとルーファウスの目の前で、セフィロスはエアリスを抱き締めていた。

「神羅の英雄です。」

ツォンがしれっと答えた。
何事もなかったように再び書類に没頭し始めたようなこの男を蹴飛ばしてやろうか、とルーファウスは思った。

「不愉快だな。」

背凭れにどっかりと身体を預け、足を組んだルーファウスが言った。

「何がですか?部下のプライバシーに立ち入り過ぎるのは人の上に立つ者としてどうかと思いますが。」

「人の上に立つ者として言っているんだ。セフィロスは神羅の広告塔だ。あんな無様な姿を人前に晒すなど、神羅への、ひいては僕に対する冒涜だ。」

車を目的地へ、とツォンは運転手に伝えた。
白い大型車は音もなく滑り出す。

「ではどうなさるおつもりですか?部下を呼びつけてデートをするなと、そんな無粋な事を仰るおつもりですか?ご自分の顔にご自分で泥を塗るような真似はなさらないで頂きたいものですね。」

追い抜いた二人の影がどんどん小さくなっていく。
ルーファウスは一度だけ後ろを振り向いてその姿をもう一度見た。
背の高いセフィロスはそれだけで遠くからでも十分目立っていたが、その長身に寄り添うように立つ小さな桃色の影のせいで、まるで太陽がその辺りだけに光を恵んでいるかのような錯覚をルーファウスに覚えさせた。

「神羅の英雄があんな小娘の影に霞んでいいわけがないだろう。」

呟くような独り言にツォンが言った。

「ただの小娘ではありません。だからこそ、それで彼が幸せならば・・・構わないと思ってはやれませんか。」

「いやに詳しいじゃないか。益々気に入らない。僕だけが知らなくてお前が何でも知っているような顔をしているのはもっと気に入らない。」

何を我儘な…、とツォンはため息をついた。

「あの二人はそれぞれ孤独な存在です。そんな二人がお互いに愛情を感じているのだとしたら、それは彼らにとっての救いになるとは思いませんか。」

「全然。」

肩を竦めてルーファウスが言い放った。

「お前はさぞかし良かったと思っているんだろうな。帽子とマフまで買ってやった女がセフィロスと巡り合って幸せそうで。」

ふふんと鼻先で笑うように「マフ」のひと言に嫌に力を込めてルーファウスが言った。
けれど、何の反応も起こさないツォンに苛々したように言葉を続ける。

「セフィロスをどこか遠くへ行かせてやろうか。そうすれば・・・・・・・ああそうだ、それよりもっといい事を思いついた。」

何故かルーファウスを諌める言葉が出て来ない自分をツォンは呪った。

「あいつから取り上げてみたらどうだろう、あの子を。どうせ神羅で監視しているんだろう?父に頼めば僕の物に出来る。それで・・・・・そうだな、飽きたら返してやるよ。その時に、返して欲しかったら僕の前で跪け、って言ったら、セフィロスはどんな顔をするだろう?・・・・・・僕に斬りかかって来たりして。そうしたら一生幽閉とか・・・・どこかもの凄い僻地へ飛ばされる、とか。運が悪ければ処刑かもしれない。」

楽しそうに笑うルーファウスにツォンがもう一度溜め息をついた。こんな戯言に一瞬でも気持ちを飛ばした自分にうんざりした。

「彼は、跪くと思いますよ。」

一瞬何を言われたのか判らなかったかのようにルーファウスが目をしばたかせた。

「セフィロスが?僕の前で?あのプライドの高い男が?」

はっ!と声を上げて笑ったルーファウスをツォンが制した。

「あなたの前で跪くくらいの事でエアリスを返して貰えるのならば。それに、その程度の事では彼のプライドは揺るぎもしないでしょう。」

「何だそれは。僕がセフィロスに相手にもされてないから、そんな事をしても痛くも痒くもないとでも言いたいのか。」

「・・・・・・・ご自分の力量を冷静に判断できるだけの器はおありのようですね。」

ルーファウスの頬が紅潮した。

「誰に向かって物を言っている。先にお前を飛ばしてやろうか。」

「ご随意に。」

あっさりと言うツォンにルーファウスが鼻を鳴らして再びクッションに沈み込んだ。
この主人が、いつか人を思い遣るという事を知る大人に成長するまでには、あとどのくらい時間がかかるのだろうか、とツォンは思う。

「つまらない。それなら・・・・正攻法ではどうだろう。神羅の次期社長夫人、どんな女にも魅力的な地位だと思わないか?」

今度はツォンが笑う番だった。

「お父上に・・・・・・古代種がどういう存在なのかもう少し教えて頂いたほうが良さそうですね。それに、それ以前に彼女はそんな物に見向きもしないでしょう。」

「そう。」

頬杖をついて、暫くの間ルーファウスは考え込んでいるようだった。

「だけど、いつか神羅全部が僕の物になるんだ。あいつらも…お前も…皆僕の物になるんだ。そうしたら………」

そうしたらこの奇妙な苛立ちは収まるだろうか、とルーファウスは思った。
自分だけが蚊帳の外のような居心地の悪さが少しでも減るのだろうか。
「あの二人はそれぞれ孤独な存在です。」と、ツォンは言っていた。そんな二人がお互いを思い合っているのだという。
どうして自分は今までに一度も彼女と会った事がないのだろう。

「僕も十分『孤独』だと言って貰える立場だと思うけれどね。」

窓の外を見ながら珍しく本音をこぼしたルーファウスにツォンが軽く微笑みを浮かべた。
ひょっとしたら彼は、神羅の中で唯一の存在である自分を、同じく無二の存在であるセフィロスと重ね合わせている部分があるのかもしれない、と思う。

「神羅の次期社長が孤独を恐れないで頂きたいですね。それから、ご自分の事を『僕』と仰るのも止めて頂きたい。」

ルーファウスは返事もせず、それからはもうひと言も口を利かなかった。


理解してくれる誰かが現れる事を、彼はずっと願っていたのかもしれない。だとしたら今日見た光景はさぞかし目の毒であっただろうと思うと、ツォンはこの若い副社長にほんの少しだけ同情せずにはいられなかった。












             愛する君にさよなら10のお題  creap(閉鎖)真朝様  より











         

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