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つかめそうな星空に手を伸ばした 無理だとわかっているのに














ガラスに何かがコツンと当たる音を耳にして、エアリスは小走りに窓に駆け寄るとカーテンを開けた。
帰ってたなら帰ってた、って。連絡くらいくれればいいのに。こんなに夜遅くになって…。

いつか家まで送って来てくれた時に、自分の部屋の明かりが点くまで待って窓に小さな石を投げてくれたいたずら好きの笑顔を思い出して、泣きたいくらいの安堵感に、エアリスはわざと膨れた顔を作った。
けれど渋面は長くは続かなかった。大きく開けた窓から身体を乗り出すようにして「お帰り!ザックス。」と言おうとしたエアリスは、街路に立つ銀色の影を見て両手で口を押さえた。

「セフィロス・・・・・・・」








ニブルヘイムで大惨事が起こった事はごく一部の者にしか知られていなかった。そしてその証拠を隠滅するためにタークスが総出で事後処理に当たっている事も。

その惨事を引き起こした張本人がセフィロスである事も。







「・・・・・・だから暫くツォンには会えないよ?」


魔晄炉の調査などという穏やかな任務についていたソルジャーや一般兵達が、帰還予定日になっても一向に戻らなかった。帰って来ない家族や恋人、友人を案じて人々の口に妙な噂が流れ始めた頃、エアリスは神羅にツォンを尋ね、その一件をルーファウスの口から直接耳にしたのだった。

毎月定められた一日を別にして、決して神羅に足を向けようとしないエアリスがわざわざ尋ねて来た事に、取り次いだ者もどこに連絡を回したらよいものかと思案したらしい。一番適当そうなツォンは不在だったし、結局ツォン繋がりでエアリスの訪問はルーファウスへと上げられた。

「ちょっと興味があったしね。」

驚いた事にエアリスはルーファウスの私室へと通された。
わざわざこんな所にまで連れて来なくたって、立ち話で十分だと言うエアリスにルーファウスは言った。
自分専用の執務室のドアを開けると、手の平をすっと動かしてエアリスを室内へと誘う。白で設えられたその部屋には所々に磁器の花瓶が置かれ、そこに活けられた真っ白なバラの人工的な美しさにエアリスは眉を寄せた。

座って、とエアリスに促してルーファウスも向かい側に腰をかける。
アイボリーがかった白い皮張りのソファと足元の白いラグは、ふかふかし過ぎていて落ち着かなかった。居心地悪そうに腰をかけるエアリスに、ルーファウスが口を開いた。

「何故そんなに気にする?ミッションが失敗に終わって兵士が帰って来れない事など茶飯事だ。誰がどうなろうとも・・・・・・・どうせ君のセフィロスは無事だろう?」

揶揄うような声だった。

ついこの間までほんの子供だったくせに・・・・・・!

自分の後を付いて回っていたような子供に、おまけに一つ年下で、世間知らずのお坊ちゃまにこんな口を利かれる謂れはない、とエアリスは思った。

「何か隠そうとしてる!ファーストクラスのソルジャーが何人もいて・・・・・・彼らが全滅するわけない!」

「・・・・・・よく知っている。そう。他にニュースソースがありそうだね。心配してるのは・・・・・・そのソース元?ニブルへでも行っているのか。だったら・・・・・・・セフィロスを心配していたんじゃないんだ。」

ルーファウスが組んだ両手の上に顎を乗せてエアリスをじっと見詰めた。

「・・・・・・誰を心配してるの?」

「・・・・・・ただの友達!」

実際、言葉にして説明するのならば、ザックスはエアリスにとってただの友達に過ぎなかった。

ただの友達だけど・・・・・・だけどひょっとしたら・・・・・って。

「セフィロスは?心配ではないのか?」

「・・・・・・勿論心配してるよ!」

エアリスの頬が赤かった。

「ウソが下手だ。昔からだけれど。・・・・・・キミが自分より他の誰かの心配をしていると知ったら・・・・・・セフィロスはさぞ気を落とすだろう。」

ルーファウスは面白そうに続けた。

それなら教えてあげよう。

「ニブルヘイムで大虐殺があった。手を下したのはセフィロスだ。村一つ丸焼きにして村人も全員惨殺。勿論止められた者はいなかった。ソルジャーも兵士もセフィロスに殺されてしまったからね。全滅だ。」





頭の中が真っ白になった。

立ち上がったまま口も利けないでいるエアリスにルーファウスが言った。

「・・・・・・セフィロスに、何があったかは今調べさせている。・・・・・・どうだ?少しは彼が心配になったか?そうそう、これは未確認の情報だけれど、セフィロスが名もない一雑兵に倒された、という噂もある。そうして魔晄炉に落ちて・・・・・・・ジ・エンド、らしい。」

ジ・エンドの所で、水平に保った手の平を自分の首の前に当て舌を鳴らしてみせたルーファウスは、テーブルを飛び越えたエアリスの動きに一瞬遅れた。
パンという乾いた音が響いて、ルーファウスは横を向いて打たれた頬を押さえた。

「・・・・・・・ひとでなし!」

ルーファウスは顔を上げなかった。

「ひとでなしで結構。それなら聞きたい。どうすれば君は満足なんだ。」

「満足、って何よ。」

「僕が泣いていれば満足なのか。ミッションが失敗する度に喪服でも着て・・・・・・遺族に頭下げて、声明文でも読み上げればいいのか。君は僕に何を期待しているんだ。理想を押し付けられても困る。」

気が付いてよく見れば、ルーファウスは随分と憔悴して見えた。彼には彼なりの立場と苦労があるのかもしれない、とエアリスはルーファウスの横に膝を突いた。

「理想を押し付けたりなんかしないよ。」

長い間の後にルーファウスがぽつりと言った。




「…隠蔽しなければならないんだ。」



ルーファウスの表情が、ニブルヘイムでの惨事の大きさをエアリスに物語っていた。
















あれから三日が過ぎている。
何の情報も進展もなく、じりじりと日々を送っていたエアリスの前にセフィロスが突然姿を現した。

「・・・・・・誰を待っていた?」

気が付くともうセフィロスは窓枠に腰掛けていた。

「友達・・・・・・だよ?」

強張った表情のままエアリスが室内に一歩下がると、セフィロスが部屋の中に立った。

「君を迎えに来た。」

「なに?・・・・・・・なんで?どこへ?」

「漸く判ったんだ。全ての事が。君がどうして今まで一人ぼっちだったのか。そしてオレがどうして作られたのか・・・・・・」

「作られた?何の話してるの・・・・?それより、他のみんなはどうしたの!?みんな無事なの?ザックスは・・・・・・・・!」

言いかけてエアリスは思わず口を噤んだ。
ルーファウスに言われるまでもなく、セフィロスよりもザックスの身の上を案じている自分自身に、ずっと戸惑いを感じていた。

セフィロスの瞳孔がすうっと、まるで新月のように細くなって、綺麗な緑色の瞳が感情を持たないガラスの球体のように透き通った。

「・・・・・・ザックス?」

今思えば、あの時が初めてエアリスがセフィロスの狂気を嗅ぎ取った瞬間だったのかもしれない。

「そんな奴知らない。」

セフィロスはザックスを知っている、とエアリスは直感した。
知っていて、もう全てを知らない事にしたのだ、とエアリスは思った。

「・・・・・・・みんな、生きてるの?」

「さあ。オレには関係ない。」

何の感傷もなくそう言うと、セフィロスは右手をゆるゆると揚げてエアリスに差し出した。
人は、禍々しいほどに美しい物を見ると足が竦んでしまうのだと、エアリスはその時に思った。

「おいで。」

そう言われると拒む事が出来なかった。
まるで暗示にかけられたように、心とは裏腹に足が動き始めていた。

セフィロスの側まで近寄ると、ぐいと腕を引かれて腕の中に閉じ込められた。息もつけないような苦しさに身じろぎをしようとすると、セフィロスのコートから硝煙と煤煙と、そして血の匂いが立ち昇った。
うっと口元を押さえて思わず顔を背けると、セフィロスがその顔を掴んで自分の方へと向けた。

「・・・・・・血の匂いがする。」

必死の思いで唇に言葉を乗せた。

「ザッ・・・・・・・・」

クスは、同行した他のソルジャー達はどうしたのか、という問いはセフィロスの唇の中に吸い込まれて行った。

「聞きたくない。」

セフィロスはエアリスを離さなかった。

「君の唇から他の誰の名も聞きたくない。オレには・・・・・・君さえいてくれればいいんだ。」

そう言うと、再びエアリスの唇を塞ぐ。
差し入れられた舌に言葉を封じ込められ、絡んだ唾液を何度か嚥下してもセフィロスの唇は離れなかった。溺れそうになる感覚に何とか自分を取り戻そうと、エアリスは全身の神経を両手の平だけに集中させ、セフィロスの胸を押した。

「村を焼いた・・・・・・・って、本当?」

セフィロスの瞳が一瞬揺らいだ。

「どうしてそんな事・・・・・・・。」

自分の胸を押したエアリスの腕を見下ろしたセフィロスは、その両手首を右手で掴んだ。

「・・・・・・手始めに過ぎない。あいつらは、いや、この星に生きる全ての人間は、生きている権利も、資格もない。」

「セフィロス・・・・・・・何言ってるの?私達だってその人間達の中の一人なんだよ!?」

「君とオレは違う。」

「違わないよ!虫や花が生きてるのと同じように、みんなも私達も生きる権利はあるんだよ!ううん!権利とか、そんなんじゃない!生きてる事が自然なんだよ!」

エアリスが何を言っても、まるでその言葉が外国語であるかのようにセフィロスの前を通り過ぎて行った。

「君は、古代種・・・・・・・と呼ばれる事に抵抗はないのか?本来なら君達こそがこの星の上に繁栄していた筈だ。その君達を滅ぼして・・・・・・今地上を覆っている汚れた人類を、憎いとは思わないのか!?滅ぼしてやりたいと・・・・・・思わないのか!?」

エアリスの手首を掴んだまま、セフィロスは空いた方の手で首筋から肩へと何度も触れた。耳朶を噛みながら耳元で囁く。

「今度は彼らが『絶滅した古代種』と呼ばれる番だ。」

唯一生き残りの『古代種』と呼ばれ、扱われ続ける事がどんなに苦痛だったか、それは紛れもない真実だったし、セフィロスだけは何故か自分のそんな思いを理解してくれていると思っていた。

だけど違う。

「君とオレが・・・・・・新しい世界の神になればいいと、そう思わないか?」

「思わないよ!」

エアリスが耳を押さえて叫んだ。
その場にくず折れるようにして膝を着く。

「違う!違う違う!私とあなたは違う!あなたとは違う!私は・・・・・・みんながいなくなればいいなんて思わないもの!みんなのせいで・・・・・・私が一人になったなんて思えないもの!あなたの目的がみんなを滅ぼす事なら・・・・・・・・・」

エアリスの脳裏に、初めて教会で出逢った頃のセフィロスの姿が蘇った。
殆ど口も利かずに何ヶ月も、何年も黙々と二人で花を作った。
あの頃は、話さなくても分かり合えるなんて思っていたのに。




全部・・・・・・・私が勝手に思いこんでいたんだね。




「私、あなたと一緒にはいられない。もう会えない。」

眉一つ動かさないセフィロスが心の中でどんなに傷ついているのか、どうして自分には判ってしまうのだろうか、とエアリスは思った。
セフィロスの傷口から涙が溢れ出て、その涙の一粒一粒が言葉になって自分を押し潰しそうだった。何故か、星がセフィロスを悼んで一緒に泣いているような気がした。

「一緒に・・・・・・来てはくれないんだな。」

平坦な声だった。
エアリスの瞳からぱたぱたと涙が零れ落ちた。

「ごめん、セフィロス。あなたは・・・・・・・・・私の探してる人じゃない。」

「そうか。」

あっけない程簡単に、セフィロスが離れた。




私の探してる人は、私を救ってくれる人。
そして多分、あなたの事も救ってくれる人。
ただの友達だったけど、ひょっとしたらあの人は私達を救ってくれるかもしれないと思った。思いたかった。

無理だって、判ってたけど・・・・・・・






「一緒に神になろう、と言う人に、私はついては行けない。」

エアリスが一歩下がってセフィロスを見詰めた。

「無理強いを・・・・・・するつもりはない。」

セフィロスも一歩下がった。

「ひょっとしたら一緒に来てくれるかもしれないと思った。・・・・・・思いたかったんだ。無理だと・・・・・・・最初から判っていた。」

そう言って小さく笑った。
それが、エアリスが見たセフィロスの最後の笑顔だった。
胸が痛くなるような笑い方をした後、目を伏せたセフィロスは、訪れた時と同じように音もなく窓から消えていった。

一瞬遅れて窓に駆け寄ったエアリスが辺りを見回しても、もうその姿はどこにも見えなかった。
エアリスの庭に陽光の恵みをもたらす、プレートとプレートの狭間から、零れそうな星がいくつも見えた。









無理だって、判ってたならわざわざ言いに来ないでよ。





エアリスは顔を覆って泣いた。










            愛する君にさよなら10のお題 creap(閉鎖) 真朝様より

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