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いまさら気づいたってもう遅い








ロックが解除される音が聞こえて、エアリスはベッドから体を上げた。
エアシューターのような軽い音と共に開いた扉をくぐってツォンが部屋に入って来る。ベッドサイドにちらりと視線を向け、そこに置かれた小さなテーブルの上のトレイの中身が手付かずであると知ると軽く眉を顰めた。

「食べないと体が保たないぞ。」

食器に人差し指を当てると、疾うに冷え切った中身の冷たさが樹脂を通して伝わって来るようだった。

「何よ。・・・・・・・・ツォンなんて・・・・・・・・」

「何だ。」

エアリスはベッドの上に腰掛けたまま下を向いて唇を噛んだ。

「ツォンなんて私の事ぶったくせに!」

なんだそれか、とツォンは思った。

「・・・・・・当たり前だ。どうして君はあんな少女を庇ってわざわざ我々の目の前に姿を現したんだ。掴まえてくれと言っているようなものだ。私達が・・・・・・君を自由にさせるためにどんなに・・・・・・」

言いかけてツォンは言葉を切った。
勢い込んで自分は一体何を言おうとしたのだろうと軽く頭を振る。

「もういい。」

「もういいって何よ!私がここにいるからタークスとしてのあなたのお仕事は完了で、だからもういいって事!?よかったわね!ツォンはエリートだものね!どうせ人の命なんて何とも思ってないんだ。だから『あんな少女』なんて軽々しく口に・・・・・・・・嫌!もうぶたないで!」

エアリスが身を竦めた。つかつかとエアリスの側まで歩み寄ったツォンが、片手でエアリスの腕を掴み、もう片方の腕を振り上げたからだ。
ツォンがこんなに怒った顔をエアリスは初めて見た。
高々と振り上げられた右手を見た途端に、もう一度叩かれると思ったエアリスは叫んだ。
ツォンがはじかれたように腕を下ろした。

「すまない。・・・・・・・・もう、あんな事はしない。君はもう私達が知っている子供じゃない。………いたずらをした子を叱る役目は終わったんだ。」

下ろされた腕は、固く拳を握り締めていた。

「あんな少女、と言った事は謝る。ただ、考えてもみろ。捕えたところで何のメリットもない、誰も素性も知らない少女をここから逃がすのと君を逃がすのでは・・・・・・訳が違うんだ。」

ツォンの言葉にエアリスの表情が緩んだ。

「また、助けてくれるの?昔みたいに。」


それはスラムで絡まれていた彼女を救った時の事だろうか。それとも、待っても待っても帰って来ない誰かを思って彼女が泣いていた時の事だろうか。


「・・・・・・子供の頃だってツォンは私の事叩いたりしなかったじゃない。さっきが初めてだった。」

「すまない。・・・・・・・痛かったか?」

うん、ちょっとね。
とエアリスは微笑んだ。

「君が・・・・・・あんまり自分の事を考えないで無茶をするからだ。」

ツォンが置かれていた椅子の一つに座った。

「君は昔からいつも私を・・・・・・・・」

まるで試すように軽やかに窮地に落として行ってくれる、とツォンは思った。

「とにかく食べておけ。いざという時に走れないと困る。」




もうお前は抱えて走るには大きすぎる。




「あれ?」

ツォンの思いを斟酌せずにエアリスが頓狂な声を上げた。

「・・・・・・何だ。」

「ツォン、いつから自分の事『私』なんて呼ぶようになったの!?それに『君』!?キミだって!キミ!あはは!おかしい!おじさんみたい!」

「…私はもうおじさんなんだ。君が神羅ビルに来なくなってから何年経つと思っているんだ。それに・・・・・・最近では君を監視する仕事も次の者に引き継いでいる。」

溜め息を吐くような疲れた声でツォンが言った。

「ああ!あの赤毛のお兄ちゃん!そっか、ツォンはエリートだもんね。いつまでも私のお守りばっかりしてるわけにはいかないものね。」





そう。
俺は俺なりのやり方でこの組織の中の階段を昇り詰めて・・・・・・・・・
そしていつかお前を自由にさせてやれたらいいと思っていた。





「・・・・・・・まあ、そうだな。お陰様で順調に出世している。ルーファウスが社長になる頃には副社長も夢じゃないだろう。」

ふん、とつまらなそうにエアリスが鼻を鳴らした。

「みんなそれどころじゃないのに。あなたって本当に昔から仕事だけが大事なんだよね。」

「誉めて貰えて嬉しいよ。」

嫌味な言い方にエアリスがまなじりを上げた。

「そうだよね!古代種の生き残り捕まえてプレジデントに報告するんだもんね!おまけにプレート落としてアバランチ一掃・・・・・・・・」

自分の言葉にはっと気付いたようにエアリスがツォンを見た。

「みんな・・・・・・無事、だよね。ちゃんと逃げたんだよね。」

「みんな?」

そう言ってツォンは腕組をする。

「ああ、君の知り合いらしいあの小汚い奴らの事か。・・・・・・さあな。運が良ければ助かっているだろう。最期に君にも会えたし、感謝しながら潰されていったかもしれないがな。」

「・・・・・・・・ひどい!」

そう言ってエアリスは肩を震わせた。
全員無事に助かっている事は、勿論既にレノから報告済みだった。けれど、彼らにエアリスを返してやるのだ。何も今教えてやる必要もない。

どうせ彼らは数時間後には再会を喜び合い、生きていた事を祝うのだ。




そして旅立って行くのだろう。




「今夜、多分セフィロスが来る。」

ツォンの言葉にエアリスが顔を上げた。

「セフィロスが!?どうして?」

お前が捕まっているからに決まっているだろう・・・・・・・・

自分を助けるためになど来るはずがないと思われているセフィロスをツォンは哀れに思った。

「『約束の地』・・・・・・・?そうなんでしょ?それが神羅の手に渡ると困るから?」

確かに彼は今狂気の只中にいる。
彼の口からは恐らく『約束の地』の言葉が紡ぎ出されるのだろう。けれど、それでもなおエアリスを求め、追い続けている事に彼自身は、そしてエアリスは気付いているのだろうか。
彼に残るほんの少しの正気が彼を突き動かしているのではないのだろうか。

「・・・・・・判らない。」

ツォンは首を振って椅子から立ち上がった。

「宝条の怪しい実験は・・・・・・・何としてでも俺とルーファウスで止める。今夜は・・・・・・・大騒ぎになる筈だ。チャンスは今晩だけだ。判ったら喰っておけ。」

そのまま部屋を出ようとするツォンにエアリスが声をかけた。

「ねえツォン。」

「何だ。」

ツォンはもう振り向かない。

「・・・・・・・ひょっとして、今までずっと私の事、守っていてくれてた?」

ツォンが視線を落として片頬だけで笑った。

「・・・・・・・今頃気付いたのか。」

「もう・・・・・・守ってくれないの?」

「自分で外へ飛び出す事に決めたんだろう。神羅の外に出た君を守れるのは君自身だけだ。」




もう、俺の力の及ばない所へ、手の届かない所へ行くんだろう。



「・・・・・・・元気でな。」

ドアが閉まった。







今頃気が付いたのはお前じゃあない。
大事な事に今更気がついたのは多分俺なんだろう。
いまさら気づいたところでもうどうしようもないけれど。


ツォンはそう思った。





      愛する君にさよなら10のお題 Creap(閉鎖)  真朝さま









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